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大田の自然関連講座資料

■活火山!三瓶山の火山史と現在・未来

おおだ学火山講座(御嶽火山災害。活火山・三瓶山の現状は?) 2014年10月7日 於:大田市民センター

1.三瓶山は活火山である

三瓶山南方の志学展望広場から見た三瓶山

図1 三瓶山南方の志学展望広場から見た三瓶山
複数の峰からなる三瓶山は、約5万年前の大噴火によって形成されたカルデラ内に形成された溶岩ドーム群。

 大田市南東部に位置する三瓶山は、火山活動によって形成された山で、活火山に指定されています。
活火山とは、防災を目的として、今後火山活動を行う可能性がある火山に対して指定されているものです。
現在、活火山の指定基準は、「過去およそ1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」で、約4000年前に最新の活動を行った三瓶山はこの基準に当てはまります。

活動性による火山区分の変遷

図2 活動性による火山区分の変遷
活火山の定義は、火山への認識や防災概念の変化に応じて変わってきた。

 火山の区分については、時代とともに移り変わっており、それを表にしたものが、上の図2です。
1960年代までは、噴火している火山を活火山と呼び、噴火記録がある火山を休火山、ないものを死火山と呼んでいました。この区分では三瓶山は死火山に相当します。
しかし、長い休止期間を経て活動を再開する火山もあることから幾度か定義が見直しされ、現在は2003年に定められた定義が使われています。三瓶山が活火山に指定されたのは、2003年です。

活火山の分布図

図3 活火山の分布図
現在、活火山に指定されている110火山の分布図。

 活火山の分布図を見ると、中部地方以東と九州に多いことがわかります。
中国地方には活火山指定されている火山が2つあり、三瓶山と山口県萩市の阿武火山群がそれにあたります。
阿武火山群は小さな火山の集まりで、日本最小の火口を持ち、観光地としても知られる笠山が約8800年前に活動したことから、火山群として活火山指定されています。

活火山の名称とランクA,B,Cの区分

図4 活火山の名称とランクA,B,Cの区分
火山噴火予知連絡会による、活動度に応じた活火山のランク区分。

 火山噴火予知連絡会は、2003年の活火山の定義改定の際に、活動度に応じて3段階のランク分けを行いました。
三瓶山は、最も活動度が低いランクCに区分されています。
現在、気象庁ではこのランク区分を用いていません。

監視・観測体制の充実等の必要がある47火山

図5 監視・観測体制の充実等の必要がある47火山
気象庁が防災の観点での区分として用いている、防災上重要な47火山とその細分。

 気象庁は、A,B,Cの3ランクとは別の区分として、2009年に「火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある47火山」を定めました。
それまでのランク分けは、火山の活動度の情報だけで区分され、噴火時に被害が発生する範囲など、防災面の要素は考慮されていませんでした。そこで、新たにこの枠組みが決められました。

2.火山とは?

活火山の分布とプレート境界

図6 活火山の分布とプレート境界
日本列島における活火山の分布(小笠原諸島の一部は省略)と火山フロント(赤線)にプレート境界を重ねたもの。

 日本列島の活火山の分布を見ると、列状に並んでいることがわかります。
火山の並びは、以前は「火山帯」という言葉が使われていましたが、現在は火山フロントと呼ばれています。
日本列島の火山フロントは、プレート境界に平行していることがわかります。これは、火山の源となるマグマが生成される場所と関わりがあります。
マグマとは、岩石が溶融した液体で、地下に存在するものです。地上に噴出したものは、溶岩と呼ばれます。

プレートの動きとマグマの生成

図7 プレートの動きとマグマの生成
日本列島付近のプレートの動きと、マグマ生成位置、火山の関係を模式的に示した図。

 日本列島付近では、太平洋の海底プレートが大陸プレートの下に潜り込んでいます。この動きは、地震発生の応力となるだけでなく、火山にも直接的に関係しています。
地球の内部は、中心近くの外核以外は基本的に固体(岩石)で出来ていて、マグマが存在する場所は限られます。
マグマが存在するのは、何らかの要因で岩石が融解し、マグマが生成された場所と、それが移動してとどまっている場所だけです。
プレートの沈み込み部では、岩石が融解する条件が揃う場所があり、その深度はおおよそ一定です。その深度の等深線は、火山フロントと一致します。

プレート沈み込み部におけるマグマの生成

図8 プレート沈み込み部におけるマグマの生成
海洋プレートがある程度の深さまで沈み込むと岩石中に含まれていた水分が放出され、水分が供給されたマントル物質の融点が局部的に低下することでマグマが生成される。

 プレート沈み込み部でのマグマ生成は、次のようなメカニズムによると考えられています。
大陸プレートの下に沈み込んだ海洋プレートが深度110km以深に達すると、岩石中に含まれていた水が放出されます。
マントル物質が水と反応すると、その融点が下がります。
プレートの動きに引きずられて沈み込んだマントル物質の温度が、部分的な融解が起こる温度まで達した時、岩石の一部が溶けてマグマが生成されます。
プレート境界部のマントル物質の温度が高くなる条件として、プレートに引きずれてマグマが沈み込む動きによる、地下深部から高温のマントルが上昇する動き(図中オレンジの矢印)が発生されることが考えられています。
生成されたマグマはやがて「浮力」の力によって上昇し、大陸プレートの下部まで達します。そこからさらに上昇が続くと、ついには地上に噴出して火山を形成します。

火山噴火のタイプ

図9 火山噴火のタイプ
火山噴火は、基本的にマグマによって起こるが、直接マグマが関与するマグマ噴火、水(水蒸気)によって起こる水蒸気噴火、水とマグマが関与するマグマ水蒸気噴火がある。

 火山噴火は、マグマが地上に噴出することによって起こります。マグマが地下深部から上昇し、地上に噴出する原動力は、マグマに含まれる水や二酸化炭素などの成分です。これらは、地上では高温条件では気体になる物質ですが、地下の高圧条件ではマグマ中に溶け込んでいます。
浮力の作用によってマグマが上昇を始め、浅くなるとともに地下の圧力が低下すると、マグマの中で揮発成分が泡立ち始めます。
泡立ちによってマグマは膨張し、広がろうとする力と、浮力がそれまで以上に働きます。この泡立ちによりマグマは上昇し、加速度的に泡立ちが発生すると岩盤を突き破って地上へ噴出します。
この動きは、炭酸飲料を振ってから開栓した時の噴出現象と似ています。

 火山噴火は、基本的にマグマの上昇によって生じますが、マグマが直接噴出しない噴火もあります。
それは、地下水が関与するものです。
何らかの要因で地下水にマグマの熱が急激に伝わった場合、水蒸気の圧力によって噴火が生じます。この水蒸気噴火では、マグマ成分は噴出されません。
高温のマグマと地下水が直接接した場合には、両者が混合して噴出するマグマ水蒸気噴火が発生します。水蒸気噴火とマグマ水蒸気噴火は連続的に変化して発生する場合もあり、噴出された火山灰中に、高温のマグマから直接もたらされた火山ガラスの有無が区別の決め手となります。

火山岩の区分と火山地形

図10 火山岩の区分と火山地形
火山岩は二酸化ケイ素の量によって区分される。二酸化ケイ素の量は、マグマの性質に関係し、それは噴火のタイプや火山地形に反映される。

 溶岩が固結した岩石は火山岩と呼ばれ、それは二酸化ケイ素の量によって区分されます。
マグマもその区分に従い、流紋岩質マグマ、デイサイト質マグマという表現を用います。
二酸化ケイ素の量はマグマの粘性(粘っこさ)を左右し、これが多いほど粘性が高く、少ないほど粘性が低くなります。
三瓶山は、最初の活動では流紋岩質マグマを噴出し、その後はデイサイト質マグマを噴出しました。粘性が高いマグマであるために、地下から多量のマグマが急速に供給された時には大爆発を起こすことがあります。
三瓶山は、その活動史の中で、日本列島の過去10数万年間の活動でも上位に入る大爆発を起こしたことがあります。
逆に、粘性が低いマグマは、火道から次々に流れ出るために大規模な爆発はあまり起こしません。同じ火道から繰り返して粘性が低いマグマが噴出されると成層火山が形成されます。富士山はその典型で、粘性が低い玄武岩質マグマの活動で形成されています。

3.三瓶火山の活動史

三瓶火山の活動年表

図11 三瓶火山の活動年表
三瓶火山の活動は7回の活動期に区分されている。

 三瓶火山は約10万年前頃に活動を開始し、約4000年前の最新の活動までに7回の活動期が知られています。
第1活動期から第4活動期までの古い時期の活動は、数万年の間隔で起こり、いずれも多量の火山灰と軽石を放出する大規模な噴火を伴っています。
約5万年前の第2活動期にはカルデラが形成され、それは山体を取り巻く緩斜面の範囲として地形的に判別可能です。
第4活動期の後半からは、比較的ゆっくりとした溶岩の噴出があり、山体が形成されました。現山体のうち、日影山は第4活動期の噴出物でできています。その他の山体は、主に第6活動期、第7活動期に、1990年代の雲仙普賢岳の活動で見られた溶岩ローブの形成とその崩壊による火砕流発生を繰り返すタイプの活動により形成されたと考えられています。
男三瓶山山頂には第7活動期の火山灰層の上に、明確なクロボク(黒色土壌)を挟んで火山灰層が重なっており、2000年前頃に何らかの噴火があった可能性がありますが、それ以外の場所で確認されていないため、確実ではありません。

三瓶木次軽石の分布範囲

図12 三瓶木次軽石の分布範囲
第1活動期に噴出された三瓶木次軽石(火山灰)は、日本列島の広い範囲で分布が確認されている。

 三瓶火山の活動のうち、最大と見積もられているのは第1活動期の三瓶木次軽石を噴出した噴火です。
この噴出物は北東方向へ分布しており、松江市付近で厚さ50cm以上、石川県付近で5cm以上、最遠は岩手県や青森県で確認されています。

三瓶大田軽石の露頭

図13 三瓶大田軽石の露頭
第2活動期に発生した大火砕流の堆積物は、大田市内の各所に厚く堆積している。写真は大田市吉永の住宅街。

 三瓶山周辺で最も多量の噴出物が残存しているのは、第2活動期の大火砕流「三瓶大田軽石流」の噴出物です。
火口から10km以上離れた大田市街から久手の海岸にかけて、厚さ10mを超える地層が分布しています。同じ堆積物は美郷町粕淵、出雲市佐田町でも断片的に残存しており、火砕流の規模の大きさを物語ります。
この時の噴火により直径約5kmのカルデラが形成されており、三瓶山の活動の中でも、三瓶木次軽石を噴出した噴火とともに最大級の噴火です。

地質図に表現されている三瓶大田軽石の分布

図14 地質図に表現されている三瓶大田軽石の分布
大田市の中心部から東部地区にかけての地質図。国道9号線周辺の台地は、三瓶大田軽石で形成された火砕流台地。

 三瓶大田軽石は地質図にもその分布が表現されています。地質図はその地域に分布する地層(岩石)を図示したものですが、火山灰が薄く覆っているものは表現されず、地形を形成している主体の地層が表現されます。
三瓶大田軽石は、大田市街周辺の台地を構成しています。現在の分布状況は、5万年に及ぶ浸食により大部分が失われた結果であり、噴出時には極めて広い範囲がこの噴出物に覆われていました。現在残されている火砕流台地の上面の高度をつないだ面が、火砕流が堆積した時の地表(それまでの地表が覆い尽くされた後の地表)にほぼ相当します。大田市街は、火砕流堆積物が浸食された谷に立地していることになります。

4.三瓶山は今後噴火するか。その時何が起こるか

 今後。三瓶火山が活動を再開するかどうかは、誰にも分からないことです。しかし、一般的な火山の寿命と過去の活動履歴から、ある程度の予想は可能です。
火山の寿命は、1回の活動で終わってしまう火山がある一方、幾度も活動を繰り返すものがあります。1回で活動を終えるものは「単成火山」、複数回の活動を繰り返すものは「複成火山」と呼ばれ、三瓶火山は複成火山です。
複成火山は、その多くが50万年から100万年にわたって活動を繰り返します。これが複成火山の寿命と言うこともできます。三瓶火山は、最初の活動が約10万年前なので、かなり若い火山と言えます。若いだけに、まだ活動を終えてはいない可能性が高い火山、再び活動を再開する可能性が高い火山ということになります。


 三瓶火山の過去の活動を振り返ると、多量の噴出物を空中に噴出する大噴火を伴う活動が4回、ゆっくりとした溶岩噴出や中小規模の噴火だけで終わった活動が3回あります。
大噴火を起こした活動は2〜3万年の間隔で生じています。大噴火として最新のものは16,000年前なので、過去の大噴火の間隔にはまだ達していません。
一方、中小規模の活動は、間隔が短いところでは約5,500年前から約4,000年前までの1,500年しか開いていません。最新の活動からは約4,000年が経過しており、すでの最短の間隔を超えています。
中小規模の活動間隔からみると、いつ活動を再開しても不思議ではない時期にきていますが、今のところ、三瓶火山は平穏な状態が続いています。
その根拠は、次のことが挙げられます。


・マグマの動きを示す火山性地震が発生していないか、極めて少ない

・噴気は二酸化炭素のみで、高温のマグマの存在を示す硫化物を伴わない

・三瓶火山周辺の温泉は源泉温度40度以下(マグマの温度が低い可能性)


三瓶山の地下には、過去の活動で供給されたマグマが残存しているはずですが、それはある程度冷えており、少なくともこのマグマによるマグマ噴火の可能性はなさそうです。
したがって、活動を再開する可能性は高いが、近日中に突然噴火することはないでしょう。活動を再開するのは、地下深部から新たなマグマが供給された時と思われます。
地下深部からマグマが供給される時には、何らかの予兆現象が生じると考えられます。マグマは岩盤を壊しながら移動するため、地震を発生させます。御嶽山の平成26年9月噴火は、明確な予兆がなく予測が出来なかったと言われますが、噴火直前に火山性地震の急増が観測されていました。予知は難しいものの、火山噴火の前には予兆現象が発生します。
現時点で、マグマの動きや岩盤の変形を示す動きが観測されていない三瓶山では、当面は噴火は起こらないと言えるでしょう。

平成26年8月から9月の御嶽山の火山性地震発生状況

図15 平成26年8月から9月の御嶽山の火山性地震発生状況
気象庁が公表している御嶽山の火山性地震発生状況。8月末から火山性地震が増加し、10日に50回以上、11日に80回以上が観測された。その後、減少に転じたことが噴火予測を困難にさせた。

 では、三瓶火山が活動を再開した時にはどのようなことが起きるのでしょうか。
過去の活動で生じた現象は、今後も起こりうることと言えます。(もちろん、過去の現象を上回る事態が生じることもあり得ます。)
大火砕流が発生した約5万年前と同じような活動が生じた場合、火砕流の地層が厚く残っている大田市の平野部などは再び火砕流堆積物の下に埋もれてしまうでしょう。火口から半径数10kmにわたって、火砕流の直撃により町も植生も壊滅状態になります。その堆積物が川をせき止めたり、崩壊して発生する土砂災害も通常では考えられない規模のものになります。
降灰量も多く、広い範囲におよびます。風向きにもよりますが、西日本は近畿地方以遠まで、甚大な被害が発生すると予想されます。火口から100km以上離れた場所でも10cm以上の降灰があり、都市インフラ、農地などに大きな影響を及ぼし、さらに二次的な土砂災害の発生も広い範囲で起こります。
しかも、この規模の噴火は地球規模の影響をもたらします。大気中に火山灰が漂うことで太陽光が遮られ、全球的な気温低下をもたらします。
三瓶山は、大規模な活動では、これほどの影響を及ぼす可能性がある火山なのです。


 約4000年前の活動は、三瓶火山の履歴の中では比較的小規模で、静かなものです。それでも、現在同規模の噴火が発生した場合、かなりの被害が予想されます。
山麓の数km圏内には、谷筋を中心に火砕流が繰り返し流下し、その堆積土砂は土石流などを二次的に引き起こします。これにより、三瓶山から流出する河川の流域では甚大な土砂災害が発生し、静間川水系、神戸川、江の川の下流の市街地は土砂に覆い尽されます。
約4000年前の活動によってもたらされた噴出物の分布範囲と分布状況から、これらのことが推測可能です。
当面は噴火の心配はないものの、「万が一」の時には大変なことが起きる。それが三瓶山です。

 最後に、活火山である三瓶山に対して、どのような備えが出来るかを考えてみましょう。
大切なことのひとつに、三瓶山は甚大な火山災害を起こす可能性を秘めた活火山であることを知ることです。万が一の時、「怖さ」を市民が知らなければ、行政などによる避難勧告も「響けど動かず」になってしまう懸念があります。火山噴火の影響の大きさを知らなければ、「ここは三瓶山から離れているから大丈夫だろう。」という判断をしてしまうことも考えられます。火砕流は10km,20kmの距離を、ほぼ一瞬で流れ去り、覆い尽くしてしまうことを知る必要があります。
市民が「知る」ためのツールとして、「ハザードマップ」は有効です。三瓶山のように活動度が低い火山ではハザードマップが作成される可能性は低いのですが、作っておくに越したことはないものです。現在までに判明している情報だけでも地図上に落とし込まれていれば、どれだけの影響がおよぶかを知ることが出来ます。万が一の時は、避難経路を選択する情報源として貴重です。


 現在、三瓶火山の観測は三瓶山の周辺地域に置かれた地震計に基づいて、異変が生じた時には観測体制を取ることになっています。平穏な状況では、それで対応可能と思われますが、周辺の地震計が微小な変化を見落とさない精度であること、地震計の情報を正しく判断できる人的体制があること、状況が変化した時にすばやい対応ができることが必須です。この備えが十分であれば、異変を認知してから入山制限や避難勧告などの対応をとる時間を確保でき、人的被害を最小限に食い止めることが可能になります。
防災の方法として、避難壕などのハード整備も考えられますが、現在の平穏な状態ではそこまでの必要はないでしょう。また、山中の避難壕はあくまで臨時の避難に過ぎず、大規模噴火に対しては全く無力となります。
活火山である三瓶山の火山噴火への備えとしては、市民が火山活動に対する知識を共有することと、異変が生じた際にすばやく対応できる体制を行政が準備すること、そして、いざ噴火が始まったら、安全な場所へとにかく逃げること。この3つだと思います。

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