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大田の地形と地質

地層観察の手引き

■4.埋没林形成の謎

1)埋没林を埋めた地層

 三瓶小豆原埋没林では、最大約13mの幹が残る立木が直立状態で埋もれている。「埋没林」として知られているもので、これほど長い幹が残存するものは他に例がなく、魚津埋没林をはじめ多くのものは根株部分が残るのみである。三瓶小豆原埋没林の形成には、なんらかの特殊な事情があったことがうかがわれる。

 三瓶小豆原埋没林を埋めている地層は、三瓶火山の噴出物からなる。その地層は、縄文時代の小豆原の谷を埋めて堆積していて、堆積様式から大きく3層に区分できる。その地層は、上から順に、“水流で運ばれて水底に堆積した火山灰層(火山灰の二次堆積層)”、“火砕流(*1)堆積層”、“土石流(*2)堆積層”である。

 一般的に、火砕流や土石流は強大なエネルギーを持った土砂の流れで、火砕流は樹木を炭化させるほどに高温の場合もある。これらの流れに直撃されると、多数の樹木が立ったままで残ることは普通は考えにくい。三瓶小豆原埋没林を埋めた土石流の地層には、幹径1〜2mの流木や、土石流に運ばれた直径3mを超える土塊も含まれていて、そのエネルギーが強大であったことを物語っている。火砕流堆積層は、その中に含まれる木片には炭化したものが多く、立木の樹皮表面の火砕流に覆われた部分は炭化している。堆積時の温度は300℃前後と推定されており、樹木を炭化させるには十分の温度があったにも関わらず、立木の炭化は樹皮表層のみで、材には全く及んでいない。すなわち、三瓶小豆原埋没林は、押し倒されたり、炭化しても不思議ではない条件にさらされながら、立ったままで残ったことになる。

 また、谷は浸食作用が卓越する場である。火山噴火や斜面崩壊によって短期的に堆積した未固結の土砂は浸食して失われるのも早い。小豆原の谷では、堆積物があまり浸食されずに残っている。このことも幹が残ったことと関わりがある。


小豆原埋没林の地質断面図

図4-1 小豆原埋没林の地質断面図


*1 火砕流:火山灰や軽石、火山礫などの火砕物が火山ガスと一体となって流下する現象。高温のものは500℃を超えることもある。

*2 土石流:多量の水を含んだ土砂が斜面を流下する現象。


2)土石流の流下経路

 三瓶小豆原埋没林を埋めた地層の最下位にある土石流堆積層は、谷の下流側で厚く、上流側で薄くなる。その中には多量の流木が含まれ、それは立木に対して下流側に絡みつく産状を示す。これらのことは、土石流が谷の下流側から流入したことを物語る。

 この土石流に対応するとみられる地層は、小豆原の南隣の谷筋(伊佐利川)に厚く分布している。三瓶山北の原付近まで土石流堆積層が連続していて、規模が大きな山体崩壊に伴って発生したものと推定される。伊佐利川の谷は三瓶火山の火山体のすそ部を谷頭としている。一方、小豆原川は山麓の丘陵地に端を発しており、三瓶火山から流下する土砂の直接の経路にはならない。小豆原川と伊佐利川は、埋没林の下流約700m地点で合流していて、合流部にも土石流の堆積物が厚く分布している。これらのことから、埋没林を埋めた土石流は、三瓶火山の山体崩壊(*1)で発生し、伊佐利川の谷を流れ、一部が小豆原川の合流部から逆流して埋没林の地点まで達したと推定される。土石流の末端部に流木が集中することはしばしば観察される現象である。埋没林地点は谷を逆流した土石流が停止した末端部分で、この地点の立木は倒れずに根元部分が土石流によって埋没したと考えられる。

 埋没林の地点のすぐ下流側では、尾根の鞍部を乗り越えて伊佐利川の谷から小豆原の谷に流下した土石流堆積物が堆積錐地形を作っており、この地形が逆流して浸入した土石流の勢いを弱める働きをした可能性もある。

 小豆原の谷は、合流部を土石流によって埋められたことで、土砂ダム(せき止湖)の状態になった。これにより、土砂が厚く堆積し得る空間が生まれ、そこを埋めた堆積物(*2)によって幹が深く埋もれることになった。


埋没林を埋めた土石流と土砂ダムのイメージ図

図4-2 埋没林を埋めた土石流と土砂ダムのイメージ図


*1 山体崩壊:北の原一帯には、山体崩壊の土砂が堆積してできた起伏がみられ、その堆積物は巨大な土砂ブロックを含んでいることから、4000年前の火山活動時に規模が大きい山体崩壊が発生したと推定できる。その跡地形は残っておらず、その後の噴出物で隠された可能性が高い。

*2 そこを埋めた堆積物:土砂ダムの状態になったことで、火山灰の二次堆積層が厚く堆積することができた。この地層がなければ、埋没林の規模は範囲、残存する幹の規模ともかなり小規模なものに留まっていた。


3)火砕流の堆積

 土石流堆積層の直上には、火砕流堆積層が重なる。この地層は火山灰を中心とする比較的細粒な火砕流(火山灰流)の堆積物で、層厚は最大3m以上に達する。この地層に含まれる木片は炭化していて、小豆原に達した時点で300℃前後の温度があったと推定されている。

 火砕流はガス体として流下(*1)する。供給源の火口から火砕流が直進してきた場合、小豆原の谷は火砕流の進行方向に直交している。谷底に生えている樹木は、南側の尾根が「防風壁」の役割を果たすことで、火砕流の破壊力をある程度免れた可能性が高い。高速の火砕流を受けた樹木に火山礫が食い込む事例があるが、小豆原の立木にはそのような状態は見受けられなかった。

 小豆原に堆積した火砕流は、材を炭化させる温度を持っていた。これが厚さ3mで堆積した場合、通常は内部の温度が低下するまでにはある程度の時間を要するため、火砕流に覆われた部分の材は炭化が進行し得る。ところが、埋没林の立木は、樹皮表層は炭化しているものの内部は炭化していない。このことは、流下した瞬間は高温だったが、堆積直後に温度低下したことを示唆する。

 火砕流の温度を低下させた理由として考えられる要素に、水の存在がある。火砕流の流下時点では、小豆原の谷は土砂ダムの状態になっていて、ある程度の量の水が存在した可能性がある。湖沼状の水がなくても、小豆原川があることで水は瞬時に供給される。この水が火砕流の温度を急速に低下させたことが考えられる。この仮説の根拠となるものとして、火砕流堆積層にみられた二次噴気孔がある。高温の火砕流堆積物に水分を含んだ材など、ガスの発生源となる物質が含まれた場合、それから発生したガスが堆積物中を通過して抜けた痕跡を二次噴気孔と呼ぶ。細粒な粒子がガスとともに放出されることで、ガスの通り道は周囲よりも粗粒な粒子の割合が高くなる。埋没林を埋めた火砕流堆積層の下部には、二次噴気孔が著しく発達した個所が認められた。特にガス発生源となるような材はなかったことから、堆積時に存在した水が蒸発したと考えられる。また、火砕流堆積層の上面が、上位に重なる水成の二次堆積層に連続的に変化する様子も観察され、これらの水が温度低下に影響した可能性があると推定される。


火砕流中の二次噴気孔のイメージ図

図4-3 火砕流中の二次噴気孔のイメージ図


*1 ガス体として流下:火砕流は、火砕物とガスが混じりあった状態で、高密度のガス体としての動きをする。


4)縄文時代の気候と植生変化

4)地下水中での保存  三瓶小豆原埋没林の出土樹木は、外見的にはほとんど劣化しておらず、強度は落ちているものの、スギについては工芸等の材料として使える状態である。約4000年の時間を経て、良好に保存された要因は、地下水中に閉じこめられて空気に触れなかったことである。

 埋没林を埋めた地層は、谷を埋めたものであるため、多量の地下水を含んでいる。発掘当時は、地表から1m程度の深さで水が湧き出す状態だった。地下水には酸素がほとんど含まれておらず、材を分解する微生物の大部分は地下水中では生息できない。そのため、材の劣化(*1)は極めてゆっくりとしか進行せず、生育時とほとんど変わらない形状を留めることができた。缶詰めや真空パックと同じ状態である。なお、埋もれた樹木の地表に露出していた部分や、空気の影響を受ける地下浅い部分は腐朽して失われた。

 樹木を深く埋めた地層が維持され、地下水位が高い条件が維持されたことは、三瓶小豆原埋没林の特殊性のひとつである。谷を埋めた堆積物は浸食速度も速く、通常なら小豆原の堆積物も大部分が浸食され、あるいは谷の深さがもとの谷底高度まで下ることで地下水位が低下し、直立状態の長い幹が残ることは難しい。小豆原の堆積物は浸食を免れた。

 浸食を免れた理由は、堆積した土砂状を流れ始めた河川が、硬い基盤岩の高まり部分で固定され、もとの谷底高度まで浸食が進まなかったことによる。小豆原川と伊佐利川の合流点から下流約300mに「稚児滝」がある。この滝の岩盤が、“硬い基盤岩の高まり”にあたる。現在、稚児滝より下流では深い谷地形であるが、これより上流は土石流堆積物が作る堆積地形が広がっている。両者の高度差は20〜40mにも達する。稚児滝の南方約50mの地点で実施されたボーリングでは、地表から40m下に埋没林形成以前の谷底が確認されていて、河川が稚児滝部分で固定されなければ、その深度まで浸食が進み、小豆原の堆積物の流失していた可能性が高い。基盤岩の高まりがあり、その部分で河川が固定されるという偶然の重なりが、三瓶小豆原埋没林の巨大な幹を残した大きな要因である。火山噴火による谷の埋積、土砂ダムの形成は、数千年、数万年の時間単位では珍しい現象ではなく、過去に三瓶小豆原埋没林と同様に長い幹を残したまま埋もれた森も多数あったと思われる。しかし、同様の埋没林が他に知られていないことは、稚児滝によって土砂の流出が免れたことが、縄文の森をそのままの姿で残した要因として大きいことを示すと言えるだろう。


合流点での河道固定のイメージ図

図4-4 合流点での河道固定のイメージ図


*1 材の劣化:無酸素の地下水中に生息する嫌気性の微生物もあり、また材の成分が直接溶出することもあるため、材の劣化はゆっくりと進行する。仮に、そのまま数十万年経過すると、多くの場合、材は劣化して土圧に押しつぶされるようになる。


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