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地層観察の手引き

■石見銀山地質ガイド 仙ノ山にはなぜ銀がある?

はじめに

石見銀山はかつて銀を産出した鉱山です。その本体は仙ノ山(標高537m)です。 この山の岩石には銀が濃集した部分があり、それを掘って製錬し、銀を取り出しました。


1.銀が濃集した部分のこと

 銀が濃集した部分を鉱床と言います。仙ノ山には2つの鉱床があり、ひとつは山頂付近から東斜面にかけての「福石鉱床」、もうひとつは西斜面から要害山にかけての「永久鉱床」です。
 いずれも銀を産出しましたが、福石鉱床は銀と鉛の鉱物が中心で、永久鉱床は銅の鉱物を多く含んでいます。


2.福石鉱床と永久鉱床

 福石鉱床と永久鉱床は鉱床のタイプが少し異なります。
 福石鉱床は仙ノ山を作っている岩石に銀を含む鉱物が入り込んでできた鉱石と細い脈石からなります。鉱物が入り込んでできた鉱石は、一見すると「ただの石」にしか見えないことが多く、銀などの鉱物はごく小さな粒として含まれています。この鉱石が「福石」と呼ばれていました。
 永久鉱床は断層や節理など、ある程度大きな岩石の割れ目を脈石が充填してできた鉱脈からなる鉱床です。鉱脈の規模は最大幅50cm程度(佐藤鉉)です。


3.仙ノ山の岩石は凝灰岩

 仙ノ山は170万〜150万年前頃に活動した火山です。その大部分が凝灰岩類でできています。凝灰岩とは火山灰や火山礫が堆積してできた岩石で、仙ノ山は火口から放出された火山灰などが降り積もってできた山(火山砕屑丘)なのです。火山灰や火山礫は「火砕物」と総称される場合もあります。
 凝灰岩類は粒子の大きさによって区分されています。直径2mm以下の細粒な火山灰からなるものを「凝灰岩」、大豆程度までの礫を含むものを「火山礫凝灰岩」、ピンポン玉程度までの礫を主体とするものを「凝灰角礫岩」、それより大きな礫からなるものは「火山角礫岩」と分類されます。この分類では、仙ノ山の岩石は大きな礫を主体とする「火山角礫岩」が大部分ですが、ここでは凝灰岩と総称することにします。


4.仙ノ山火山について

 仙ノ山火山は大江高山火山群の一角をなす火山です。大江高山や矢滝城山、要害山などの山も火山です。火山はマグマが地表に噴出(地下にあるものをマグマ、地表に出たら溶岩)してできる地形です。大江高山などは主に溶岩でできた峰ですが、仙ノ山だけは凝灰岩でできています。大江高山はゆっくりと溶岩が噴出する噴火をおこし、仙ノ山は火山灰を放出する爆発的な噴火を繰り返したと推定できます。


5.マグマとは何か

 地球表層の地殻は岩石でできています。その下にあるマントルも岩石です。マグマとは地下深部で部分的に岩石が溶解してでき、その場所は日本列島のようなプレートの沈み込み帯と、地球深部からの熱が上昇する中央海嶺やホットスポットです。
 マグマはケイ酸の多少によって区分され、ケイ酸が少ない方から順に、玄武岩質マグマ、安山岩質マグマ、デイサイト質マグマ、流紋岩質マグマとなります。ケイ酸分に乏しい玄武岩質マグマは流動性が高く、ケイ酸分に富むデイサイト質マグマ、流紋岩質マグマは流動性が低い特徴があります。仙ノ山火山はデイサイト質マグマの活動で形成されました。


6.マグマの冷却に伴う分化作用

 マグマには地殻を構成する様々な元素が含まれています。そこには水も溶け込んでいます。マグマが冷却すると、温度低下とともに鉱物が結晶となり沈殿します。それに伴ってマグマの組成が変化し、冷却につれてケイ酸と水、そして沈殿した鉱物に取り込まれない元素の割合が高くなります。銀や金、銅は鉱物に取り込まれない元素で、冷却の最終段階でマグマから水が放出される時に水とともに動きます。この水が鉱床形成に重要な役割を果たします。


7.熱水の活動と鉱床の形成

 マグマから放出された水やマグマの近傍で高温に加熱された地下水を「熱水」と言います。そこには水とともにマグマから放出された銀などの元素が含まれていることがあります。また、熱水が周辺の岩盤と反応して、元素を取り込む場合も考えられます。有用な元素を多く含む熱水を「鉱液」と呼ぶこともあります。
 熱水は岩盤の割れ目を伝わって移動します。地表まで達することもあり、それが温泉です。熱水が移動する過程で温度低下すると、溶けていた元素が結晶化し、鉱物の沈殿が生じます。沈殿した鉱物は岩盤の割れ目を充填し脈石を形成します。そこに有用鉱物が採掘可能な量含まれていれば「鉱脈」と呼ばれます。このように、熱水の作用によってできる鉱床を「熱水鉱床」と言います。仙ノ山の鉱床はマグマの貫入で生じた熱水活動によってできた熱水鉱床です。


8.福石はどのようにしてできたのか

 福石鉱床は脈石の規模がごく小さい代わりに、脈周辺の母岩自体が鉱石に変わっています。鉱物が岩石に染み込んだ「鉱染型鉱床」と呼ばれる少し珍しいタイプの鉱床です。
 福石鉱床の特殊性は、母岩が未固結の凝灰岩だったことに起因します。土砂状であるために、断層運動などによって亀裂が生じても開口したすき間はほとんど形成されません。一時的に開口しても土圧ですぐに閉じてしまうため、熱水の通り道が安定的に維持されず、幅広い脈石ができる余地がないのです。亀裂ができない代わりに、土砂状の母岩はすき間だらけなので、どこにでも熱水が入り込むことができます。熱水は水蒸気や液体として母岩に広く染み込み、そこに銀を含む鉱物を沈殿させました。福石鉱床の主な産出鉱物は、方鉛鉱、輝銀鉱、菱鉄鉱です。


9.永久鉱床の鉱脈の形成

 永久鉱床一帯の母岩は、福石鉱床に比べて緻密です。仙ノ山を作るデイサイト溶岩、デイサイト質火砕岩とその基盤にあたる新第三紀の凝灰岩が永久鉱床の母岩です。
 断層運動で母岩に生じた亀裂が熱水の通り道となり、そこに鉱物が沈殿します。亀裂の幅はごく狭いので、間もなく充填されてしまいますが、再び断層運動が生じて開口すると沈殿する余地が確保されます。それを繰り返して、最大50cm程度の鉱脈が形成されました。  脈石は、石英、黄銅鉱、菱鉄鉱、閃亜鉛鉱、重晶石、方鉛鉱などを多く含み、輝銀鉱などを伴います。


10.鉱床を作った熱水の温度

 熱水の温度によって沈殿する鉱物がおおよそ決まります。銅、鉛、亜鉛を主体とする鉱床は200〜350℃の熱水から沈殿し、金銀を主体とする鉱床はそれより低く、100〜250℃程度です。産出する鉱物の組み合わせから、永久鉱床は前者の温度範囲、福石鉱床は後者の温度範囲で形成されたとみられます。


11.砂金はあるが砂銀はない

 金、銀は自然金、自然銀として純度が高い金属として自然状態で産出します。しかし、自然金は砂金として堆積物中からも産出するのに対し、「砂銀」はありません。
 金は他の元素と反応しない(化合物を作らない)安定性が高い物質であるため、環境中に放置しても変質しません。銀も比較的安定性が高い物質ですが、硫黄や硝酸と反応して変質してしまうため、風雨にさらされる環境中では銀単体として長時間存在しないのです。


12.仙ノ山だけに銀鉱床ができたのはなぜか

 仙ノ山の周りには同時代の火山が多くありますが、銀鉱床は仙ノ山に限られます。仙ノ山では地下にマグマが貫入することにより、そこから銀を含む熱水が供給され、地表まで噴出する熱水活動が生じましたが、他の火山ではその現象が起らなかったのでしょう。それは偶然的な要素が大きかったと思われます。


13.そもそも銀はどこでできるのか

 銀は銀元素からなる金属です。銀元素は地球では生成されません。
 銀のような重い元素が生成されるのは、巨大な恒星が寿命の最後に起こす「超新星爆発」の瞬間です。その超高温、超高圧の環境下で重い元素同士の核融合反応がおこり、銀などさらに重い元素が生成されます。超新星爆発によって宇宙空間に放出された物質が再び集まり、次世代の星が形成されます。地球の銀は太陽系誕生の時に集まった物質中に含まれていたのです。


14.地球にある銀の量はどれくらいか

 地球全体の銀の総量はわかりませんが、地球表面の地殻での平均的な存在度は岩石1トンあたり0.07gと試算されています。地球中心部の核には重い元素が集まっていると考えられていて、銀や金は鉱石として使えるほどの濃度で含まれていると言われます。地球全体でみれば膨大な量の銀が存在するのでしょう。しかし、私たちが利用できるのは地殻のごく表層に限られます。


15.今も仙ノ山に銀はあるか

 石見銀山の銀は採り尽くされたのではありません。今も銀鉱石は残っています。しかし、銀鉱山としては成り立ちません。銀は残っているが、事業として見合うだけの質と量の鉱石ではないのです。
 事業として採算が取れる基準は一定ではありません。採掘や製錬技術の進歩によってコストが下がったり、市場価格が上昇した場合にはそれまで採掘対象でなかった石も有効な鉱石になります。そのようなことは過去にも繰り返されました。歴史が長い鉱山は技術的限界が来ると低迷し、新技術の導入によって再興するということを幾度も繰り返したのです。


16.露頭には高純度の自然銀が存在したか

 石見銀山の開発初期には、地表に高純度の自然銀が存在したと考えられています。
 自然銀の生成メカニズムは詳しく判っていませんが、浅部の地下水が自然銀生成に影響する場合があると考えられています。地下水と熱水との反応や、地下水により二次生成鉱物として自然銀が析出するというものです。これは自然銀が地下表層に多いということでもあります。また、山体が浸食される過程で洗い出された自然銀が地表に残留していることも考えられます。開発初期の仙ノ山に高純度の自然銀が存在していた可能性は十分高いといえるでしょう。

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