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地層観察の手引き

石見鉱山地質概況説明書(三井金属鉱業株式会社探査部 昭和50年3月)

主要目次
4  石見鉱山の概況 2
5  石見鉱山の沿革 2
6  石見周辺の地質概況 3
7  石見周辺の鉱床概況 7
8  石見鉱山の地質鉱床 8
9  鉱石および脈石鉱物 12
10 変質作用 14
11 液体包有物 16
12 網状鉱床の産状 17
   結語 19

石見鉱山の地質概要

1.位置 交通

島根県大田市五十猛町

国鉄山陰本線五十猛駅南方1.5km


2.鉱山の所有者および事務所所在地

石見鉱山株式会社

本社 島根県大田市五十猛町415番地


3.鉱種

黒鉱:(金、銀、銅、鉛、亜鉛、硫化鉄)
石こう

石見鉱山図版

第1図 位置交通図


4.石見鉱山の概況

第三紀中新世に対比される石英安山岩のbreccia pipe中に発達した鉱床で、擂り鉢状の底面をなしてbreccia pipeを覆う黒色泥岩の下部に、層状黒鉱、石こう、網状黒鉱の順に賦存している。 1955年(昭和30年)より石こうの採掘が開始され、1966年(昭和41年)から網状黒鉱の採掘が行われた。石こうの採掘は1968年(昭和43年)に中止、現在網状黒鉱の生産だけが行われている。


5.石見鉱山の沿革

1).1919年(大正8年)五十猛鉱山として重晶石の採掘が行われた。

2).1935年(昭和10年)より昭和20年まで高丸露頭において金、銀珪酸鉱が採掘された。

3).1951年(昭和26年)に、日満鉱業がボーリング探鉱によって、高丸露頭の東方400mの地点に層状黒鉱と、石こう鉱床を発見した。

4).1955年(昭和30年)三井金属鉱業が鉱区を買収、石見鉱山株式会社を設立し黒鉱探鉱を開始した。

5).1966年(昭和41年)網状鉱染型の黒鉱の確認が進み、粗鉱処理600t/月の浮選試験工場が建設された。

6).1971年(昭和46年)4,600t/月の粗鉱処理選鉱場が完成現在に至っている。


6.石見周辺の地質概況

石見鉱山は島根県のほぼ中央部日本海寄りの地域に発達した大田ベーズンの北西部に位置している。 大田ベーズンには、第2図のごとく中生代の花崗岩類と、これを不整合に覆う第三紀層および第四紀層の地層から構成されている。
第三紀中新世には、堆積作用と海底火山作用が交互に繰り返して行われ、大田ベーズンの中央部においては、堆積物の厚さが1000m以上にわたっている。
ベーズン内に置ける火山活動休止期の堆積岩から産する有孔虫の組合せと、火山噴出物の岩質から4つの地層グループに大別され、その区分は第1表の如くである。
即ち、下位から波多層、川合層、久利層、大森層に分けられている。
このうち、最も火成活動が旺盛に行われた時期は、久利層の時代である。

石見鉱山図版

第2図


石見鉱山付近には、川合層、久利層、大森層とこれを不整合に覆う第四紀層が分布している。 これら各地層の概要は次のごとくである。


6-1 川合層

安山岩の火成活動に始まって、アルコーズ砂岩の堆積に終る地層である。 下部では安山岩質凝灰岩で、上位になるにつれ細粒となり火山礫凝灰岩となる。この上部は安山岩の角礫や、人頭大〜拳大の花崗岩の円礫を含む礫岩層となり、上位になるに従って層理の発達した細粒のアルコーズ砂岩になる。

石見鉱山図版

第1表


6-2 久利層

川合層に引き続いて、泥岩の堆積に始まり、中部は石英安山岩と流紋岩および流紋岩質火砕岩によって構成され、再び上位に黒色泥岩が堆積する地層である。 既知の黒鉱、石こう鉱床は本層の火成活動に伴っており、特に、大田ベーズンのほぼ中央北寄りに東西の延長を示すドーム構造が認められ、この周縁部には鉱床生成に関連した石英安山岩や、流紋岩野活動が顕著である。延里、松代、鬼村、大屋など、黒鉱、石こう鉱山が分布している。第3図に大田ベースンの模式断面を示す。

石見鉱山図版

第2図


石見鉱山周辺に発達する石英安山岩は、これまで行われたボーリング資料によって、その形態は直径3kmのほぼ円形をなし、平均厚さ300mと推定され、米山石英安山岩と呼ばれている。 流紋岩は主に小貫入岩体または溶岩ドームをなして産し、その周辺部にはIntrusion brecciaを伴うものが多い。


6-3 大森層

久利層の上部泥岩を覆う安山岩の活動に始まり、中位に灰色泥岩を介して流紋岩とその火砕岩の活動があり、最上部は砂質凝灰岩となっている。


6-4 第四系

大森層を覆って石見鉱山北部に小規模に分布し、砂堆、泥、および粘土層からなっている。


7.石見周辺の鉱床概況

大田ベーズンにおける既知鉱床は、すべて久利層中部にあたる火成活動の激しかった時期の地層中に発達している。 鉱床は、黒鉱、石こうが組み合わさったもの、石こうが卓越するもの、黒鉱のみで石こうを欠くものの3つのタイプがある。この内訳は次のごとくである。


鉱山名        鉱物組合せ         鉱床タイプ  
石見         黒鉱(Cu,Pb,Zn)石こう   層状と網状
延里、松代、鬼村   石こう           塊状〜レンズ状
大屋         黒鉱(Cu,Pb,Zn)      脈状


石こう鉱床を主とする延里、松代、鬼村においても石こう鉱体の周辺部に塊状または鉱染状の黒鉱が確認されていることや、石こう鉱床の下位地層である川合層の砂岩中や波多層の凝灰岩中にも脈状および鉱染状の黒鉱の存在が認められているが本格的な探鉱の段階に達していない。 大屋高山は、周辺部に鉱床群を伴う東西系ドームの西側中央寄りに貫入したドーム状流紋岩中のN-S系鉱脈である。 この鉱床は石こうを欠くこと、石見鉱山に比べ鉛、亜鉛が少なく、黄鉄鉱や黄銅鉱に富むことから鉱床下底部の状況を示すものと推定される。


8.石見鉱山の地質鉱床

鉱床は直径約3km、厚さ約300mの石英安山岩(米山石英安山岩)の東側縁辺部に発達した直径約300mのbreccia pope中に胚胎しており、上位は層状黒鉱、中間部に石こう、下部は網状鉱床からなっている。
breccia popeを構成する角礫は石英安山岩、流紋岩、火山砕屑岩や泥岩の破片から構成されている。
breccia pipeの東側の縁は地頭所流紋岩と呼ばれている流紋岩の溶岩ドームによってふさがれている。
また、breccia pipeの上面は盆状構造をなしており、その上部は久利層の上部泥岩と、大森層の安山岩に覆われている。
石見鉱床と米山石英安山岩、地頭所流紋岩の関係を第4図に、層状黒鉱、石こう、網状黒鉱の平面的な分布状況を第5図に、その上下関係を第6図に示す。

石見鉱山図版

第4図

石見鉱山図版

第5図

石見鉱山図版

第6図


米山石英安山岩は地表にはごく小規模に露出しているのみであるので、石見鉱床とその周辺で行った150本以上のボーリング資料によって描いた海抜-150m水準の地質状況を第4図とした。


8-1 層状黒鉱

盆状構造をなすbreccia pipeの表面に、石こう鉱床や網状鉱床を不整合に覆って分布し、上部の黒色泥岩に覆われているもので、鉱山では粘土鉱と呼ばれている。
鉱石は変質した火山岩の破片、火山灰、網状鉱石の破片、微粒の閃亜鉛鉱、黄鉄鉱、方鉛鉱、黄銅鉱などの硫化物から構成されている。
鉱対中には、gradingによる縞状構造、flow cast、load cast、wash out、closs laminaなどの堆積構造と、コロフォルム組織など微細な構造を持つもので、水中の堆積物と考えられる。
層状黒鉱中の網状鉱石の破片は、網状鉱体に近い部分に大きな礫が濃集し、層状鉱床の中心部から上部にかけては微粒の硫化物と粘土(変質火山灰)からなる粘土鉱になっている。


8-2 石こう鉱床

層状黒鉱と網状黒鉱の中間にあり、平面的には南部が幅広く、北部が尖った自転車のサドル状を示す本鉱体と、この北西部に南北系の長軸を持つ芋状の形をなす西鉱体からなっている。平均厚さは約25mで、雪花石こうを主とし、稀に透石こうを産する。
石こう鉱体の周囲はMgに富む緑泥石粘土帯に取巻かれている。この粘土帯中には巾1cm〜30cmの繊維石こうが網状に発達している。
石こう本鉱体は南側から北側に向かって平均15度の傾斜を示しているが、鉱体内には鉱体の平均傾斜とほぼ一致した傾斜を持った厚さ1cm〜数cmの灰に富むレーヤーが数多く存在し、堆積構造を示している。
又、硬石こうは認められていない。


8-3 網状鉱床

網状鉱床はbreccia pipe中の変質したbrecciaおよびpipe中に貫入した流紋岩の岩体に発達した網目状の割れ目を埋めた硫化物と、変質岩中に鉱染した硫化物から構成されている。
鉱化作用はbreccia pipe中に広く認められ、富鉱帯は流紋岩の小貫入岩体とその周囲の珪化角礫帯に形成されている。
網状鉱床の産状や形態については、別項に網状鉱床の産状としてのべる。


9.鉱石および脈石鉱物

9-1 鉱石鉱物

閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱、黄鉄鉱を主とし、ルソン銅鉱、四面銅鉱をわずかに伴う。下部の網状鉱床においても一般に閃亜鉛鉱と、方鉛鉱、黄銅鉱は共生しており、その分布比率の平均は、閃亜鉛鉱:5、方鉛鉱:1、黄銅鉱:1の割合である。 網状鉱床中の閃亜鉛鉱を主とした鉱石の化学組成は次の表のごとくである。

石見鉱山図版

黄銅鉱も鉱床全般に認められ、黄鉄鉱の自形結晶間を埋めて産するものが多い。又、稀に閃亜鉛鉱中に微細な点滴状をなしているものも認められる。脈状鉱体の個々についてはその分布に差があるが、網状鉱床全般については鉱床の上部に比べ下部ほど濃集密度が高くなっている。
方鉛鉱は閃亜鉛鉱と共生して広く分布している。
ルソン銅鉱と四面銅鉱は黄銅鉱に伴ってわずかに産するが、一般に微粒で直径0.05〜1mm程度で、黄銅鉱中や黄銅鉱の外郭部に認められる。
黄鉄鉱は層状鉱床、および網状鉱床中に普遍的に認められるが、一般にその賦存率は少なく、鉱体中に黄鉄鉱として3%内外の含有率となっているが鉱体の周辺部においては賦在率がやや上昇し5%〜10%となっている。


9-2 脈石鉱物

脈石鉱物としては、石英、緑泥石、絹雲母、方解石が認められる。
石英は脈石鉱物の主なもので、網状鉱体においては鉱床母岩を交代して珪化帯をつくり、富鉱帯を形成している。
緑泥石はMgに富み、石こう鉱帯や網状鉱体を包んでいる。
絹雲母は網状鉱床の鉱脈の周辺や、珪化帯と緑泥石帯の中間部に認められるほか、緑泥石帯中にもわずかに混入している。
方解石は網状鉱脈を切るものも認められ、晩期に晶出したことを示しているが産出は極めて少量である。
尚、網状鉱脈を切るほか、櫛歯状の構造を示す網状鉱脈の晶洞部分を満たして黄銅鉱を伴って産する最も晩期の晶出を示すアメシスト脈(巾4cm〜15cm)が散見される。


10.変質作用

網状鉱床およびその周辺には変質母岩の累帯配列が認められる。
鉱床の中心から外部に向かって、珪化帯、緑泥石帯、モンモリロン石帯、サポナイト帯とおおむね4つに分帯される。


10-1 珪化帯

網状鉱帯の富鉱部を形成している。母岩の原岩の組織や構造を残して珪化作用が行われ、原岩の大部分は石英で交代されている。珪化帯中には緑泥石、絹雲母もわずかに認められるほか、方解石の細脈も稀に出現する。


10-2 緑泥石帯

緑泥石帯はMgに富むものと、Mgに少ないものに分けられる。
Mgに富むものは、主としてbreccia pipeの周縁内側全般に数10mの巾をもって分布するほか、石こう鉱体を包んで発達している。
Mgの少ない緑泥石は網状鉱床の富鉱体間の珪化の弱い部分、即ち鉱化作用が強く及んでいない部分の角礫凝灰岩部に発達している。この部分にも石英、絹雲母、方解石脈も僅かに含まれている。


10-3 モンモリロン石帯

breccia pipeの北縁部に認められ、僅かに繊維石こうや石英を伴う。X線解析によってK+モンモリロン石と同定された。
Mg緑泥石帯の外縁部に数10mの巾をなして産する。


10-4 鉄サポナイト帯

モンモリロン石帯の外縁部に幅約100mにわたって発達している。breccia pipeの外側の久利層凝灰岩と、この下盤の米山石英安山岩の表層部が鉄サポナイト化している。この外縁部凝灰岩と石英安山岩は斜プチロル沸石からなる沸石帯となり、巾約400mにわたって平均CEC(イオン交換客量)160を示す良質の沸石鉱床となっている。


11.流体包有物

鉱床の生成温度および鉱液の塩濃度を推定するための研究が九州大学向山研究室で行われた。
この研究は加熱顕微鏡によって閃亜鉛鉱と石英中の流体包有物の充填温度測定と、冷却顕微鏡によって包有物液相の氷点の測定を行ったものである。

石見鉱山図版

11-1 充填温度

閃亜鉛鉱および石英の充填温度は次表のごとく、深部になるに従って、最低温度、最高温度とも高くなる傾向を示している。
本表試料の内訳は、-55m準から-105m準に至る深度50m間における69地点から、閃亜鉛鉱252個、石英35個、計287個である。
充填温度は表に示すごとく186℃から270℃の温度巾を示している。
閃亜鉛鉱の95%は200℃〜250℃で、値の集中は220℃〜235℃である。
石英は197℃〜249℃で、値の集中は235℃〜240℃に認められる。


11-2 塩濃度

充填温度測定の後、加熱測定に用いたものと同一の包有物液相の氷点温度測定を行い、その測定結果から塩濃度の推定を行ったものである。
この結果、氷点温度はー0.3℃〜ー3.3℃で、この結果からNaCl相当の濃度を求めると約1%〜5%濃度となった。
充填温度と氷点温度を比べると、充填温度の高い包有物ほど液相の氷点が低く、塩濃度が高いことを示している。
石見鉱床の生成環境や生成機構解明の手法の一環として液体包有物の研究は現在続行中である。


12.網状鉱床の産状

12-1 網状鉱床の分布状況

網状鉱床は前述のごとく、米山石英安山岩のbreccia pipeを満たした火砕岩や流紋岩を母岩として、網状および鉱染状をなす閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄銅鉱によって構成されているが、亜鉛換算品位10%以上(換算値:Cu品位は4倍、Pb、Zn品位はそのままで合計する)の高品位部は、breccia pipeの中心部に胚胎する石こう鉱床の周囲および下部を取巻くように貫入した流紋岩の小岩体の周辺部に発達している。


12-2 網状鉱床の富鉱帯の産状

網状鉱染鉱床はbreccia pipe中に繰り返して貫入した流紋岩の小岩体に伴っているが、高品位部は貫入流紋岩の周辺が自破砕構造を示すところと、貫入流紋岩の周辺が礫径15cm内外で火山灰の混入の少ないところで網状裂罐の発達が著しく、かつ珪化が強く、粘土化の弱い部分である。第7図のごとく、貫入流紋岩体の周辺が自破砕状の場合にはその部分全般にわたって網状裂罐の発達が著しくかつ高品位となっている。また塊状流紋岩の周辺が角礫凝灰岩の場合には流紋岩岩体から少し距離をおいた部分で網状裂罐の発達が顕著となるこの状況を第8図に示す。

石見鉱山図版

第6図

流紋岩の貫入小岩体の形状は、逆L型、茸型、三角型、T字型など種々の産状を示し、富鉱体はこれら流紋岩の形状に支配されてその周辺に発達している。また、貫入流紋岩体が並走している場合はその中間の角礫部が高品位となっている。


結語

本稿をまとめるにあたっては、金属事業団、広島大学土井教授、九州大学向山教授、石見鉱山、三井金属鉱業などの調査資料や、研究成果をもとにして編集を行ったものである。

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