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地層から学ぶ
大地の歴史

■松代鉱山の霰(あられ)石産地

所在地:島根県大田市久利町松代
指 定:天然記念物(国)1959(昭和34)年指定
区 分:地質鉱物

霰石

直径約25cmの霰石。大田市所蔵

霰石の特徴

 松代鉱山産の霰石は、断面が菊の花のように見える六角柱状の結晶が寄り集まった集合体(クラスター)として産出します。
塊は直径5〜10cmのものが多く、時には直径30cmを超える大型のものも産出しました。松代鉱山産のように塊状で産する霰石は世界的にも珍しいことから、産出地点が国の天然記念物に指定されています。
 霰石(英語名:Aragonite)は炭酸カルシウム(CaCO3)からなる鉱物で、化学的には方解石と同じですが、結晶の形が異なるため、鉱物としては区別されます。

霰石

国立科学博物館(東京)の鉱物コレクション(櫻井コレクション)展示室前に独立のケースで展示されている霰石

松代鉱山の地質

 松代鉱山は石こうが採掘された鉱山でした。石こう鉱床は約1600〜1500万年前(新第三紀中新世)の海底火山が形成した凝灰岩層中または海底に堆積した泥岩層と凝灰岩層の境界付近に挟まれていて、海底火山にともなう海底での熱水噴出によって石こう成分(硫酸カルシウム)が沈殿堆積してできたものです。
 鉱床を含む地層は、日本海が拡大して日本列島の原型が生まれた地殻変動の時代のものです。この地殻変動では、日本海の海底と海岸部で活発な火山活動があり、その活動でできた地層は緑色の凝灰岩類(緑色凝灰岩=グリーンタフ)を特徴的に伴うことから、この地層全体をグリーンタフと総称し、地層が分布する地域をグリーンタフ地域と呼ぶことがあります。大田市は北海道から続くグリーンタフ地域に西端にあたります。
 グリーンタフの地層は、海底火山による熱水噴出で沈殿してできた各種金属鉱物が混合する鉱床を特徴的に含みます。その鉱石は黒っぽい色をしていることから「黒鉱」と呼ばれ、鉱床は「黒鉱鉱床」と言います。黒鉱鉱床の縁辺に石こう鉱床をともなうことが多く、松代鉱山も下部に黒鉱が存在します。松代鉱山から連続する地層に含まれる鉱床を長久町延里側から採掘した延里鉱山では、一時期黒鉱の開発が試みられました。

松代鉱山付近の地質

松代鉱山付近の地質

松代鉱山の地質断面

松代鉱山の地質断面

松代鉱山の霰石産地地図

松代鉱山の霰石産地周辺地図(地理院地図を使用)

霰石の産状

 松代鉱山は明治34年頃から個人による石こうの採掘が行われていたとされ、本格的な開発は大正7年に大阪石膏株式会社による鉱山で、昭和40年代まで稼働していました。霰石は石こう鉱床の近くにある厚さ5〜6mの粘土層から産出しました。開発初期には地表の露頭からも産出し(注1)、その後は坑道内で採掘することができました。
 霰石自体には資源的な価値はなく、鉱山稼働時には排土の一部として処理されていましたが、希少性が明らかになってから天然記念物(当初は県指定、のち国指定)となり、産出地が保護されました。

(注1)山口鎌次(1927)石見松代産霰石の光学性について.地質学雑誌,34.

霰石の鉱物的特徴

【分類】 炭酸塩鉱物
【色】  無色、白色
【組成】 CaCO3
【硬度】 4
【比重】 2.9
【晶系】 斜方晶系
【光沢】 ガラス光沢
【条痕】 白色
【劈開】 一方向に完全

松代鉱山稼働当時の画像(1950〜1960年代か)

松代鉱山稼働同時の画像

松代鉱山付近の全景。尾根の中腹に櫓状の施設があり、左上方の岩肌が露出する部分は露天掘りとみられる。手前の建物群の中に工場や事務所、職員住宅が見えます。職員住宅の一部は現在も残り、地区の集会所として利用されています。

松代鉱山稼働同時の画像

坑道内。人物の右上に「霰石産出地帯」の看板があります。この写真は文化庁のサイトに使用されており、天然記念物指定当時(1959年)に撮影された可能性があります。

松代鉱山稼働同時の画像

上写真の天井部分。岩質を示すための近接写真と思われます。

松代鉱山稼働同時の画像

テーブルの上に置かれた霰石。右の大きな個体は、国立科学博物館の展示標本(上の2枚目の画像)と大きさ、形状が似ており、同じものの可能性があります。

松代鉱山稼働同時の画像

小さな霰石。産出するものの多くは野球ボールより小さなもので、バレーボール大のものは比較的珍しかったようです。

松代鉱山稼働同時の画像

たばこの箱(高さ約9cm)との比較から幅75cm、高さ45cm程度と推定される極めて大きな霰石です。この個体は複数の結晶集合体がつながって大きな塊になっている様子がわかります。画像の右上に安全標識とみられる看板があり、たばこの箱が写っている霰石の画像3点は鉱山事務所で撮影されたとみられます。

松代鉱山稼働同時の画像

松代鉱山を経営した会社のひとつ「大阪石膏松代鉱山」の社名が入るトラック。雪の中で積み込みの作業を行なっています。

松代鉱山稼働同時の画像

松代鉱山で産出した石こうを運んだ山陰本線静間駅。貨物列車を牽引する蒸気機関車が停車し、その右にも貨物車が停車しています。右の貨物車がある線路は今は撤去されていますが、ホームと軌道跡の形状は今も当時のまま残っています。

松代鉱山稼働同時の画像

貨物車に製品を積み込んでいる場面とみられます。製品は山口県、福岡県のセメント工場などに出荷されました。

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