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地層から学ぶ
大田市の大地

■山陰の海岸景観と自然史

はじめに

 響灘に面した山口県下関市から京都府の丹後半島あたりまで、およそ600kmに及ぶ山陰海岸。
その景観には、日本海拡大のダイナミックな地殻変動や、点在する潟湖を拠点とした文化交流といった、自然と文化の歴史が秘められている。
また、山陰地方を縦断する火山列は、当地のランドマーク的な山である大山(1729m)と三瓶山(1126m)を生み出すと同時に、数多くの温泉があることにも一役買っている。

大山

宍道湖北岸から見た大山(撮影地・島根県松江市)

変化に富む海岸景観

 下関市北部の角島は、南国を思わせるコバルトブルーの海と、その海面上に伸びる白い角島大橋が印象的で、観光地としても人気を集めている。
海の青さは沖を流れる暖流と白い砂が演出する。この砂を手に取ると、大半が貝殻片や有孔虫の殻でできた石灰質の砂であることに気づく。
角島に近い土井ヶ浜では、この石灰質砂のおかげで埋葬された弥生人の人骨が溶けずに残り、日本列島の人類史研究における重要な資料になっている。

角島

角島とコバルトブルーの海(山口県下関市)


 長門市の青海島の海岸は、切り立った海食崖と岩礁が連続し、「海上アルプス」と称される。萩市東部の沖合には切り餅を並べたような平らな島が点在している。
この平らな島は、小さな噴火口を留め、観光地になっている笠山とともに阿武火山群に属する火山だ。

萩市須佐町の「須佐のホルンフェルス」は、白黒の縞模様が見事な地層。海底で砂と泥が交互に堆積した地層が熱変質を受けた岩石でできている。
その東隣にそびえる高山(532m)の岩体は深成岩の一種である“斑れい岩”で、方位磁石を近づけると針があらぬ方角を示すほどの磁性を帯びている。
下関市北部から萩市にかけての海岸は、地質的に際立った特徴を持つ景観が点在し、北長門国定公園に指定されている。

笠山

笠山(左)と火山台地からなる平坦な島(山口県萩市)


ホルンフェルス

須佐のホルンフェルス(山口県萩市)


 浜田市の畳ヶ浦は、「千畳敷」と呼ばれる広い海食台に塊状の岩、“ノジュール”が点々と並ぶ奇景が広がる。
このノジュールは貝化石などを核に砂岩が固結したもので、地層面に沿って並んでいる。大田市の海岸では、日本海拡大期(2500万〜1500万年前)の火山活動で形成された地層が特徴的に分布する。
この地層は江津市を西端として北海道まで広く分布しており、緑色を帯びた凝灰岩層を含むことが特徴で、鉱物資源に富むことが知られている。大田市には、この地層に伴う鉱山があり、現在も稼働している。

畳ヶ浦

畳ヶ浦の千畳敷に並ぶノジュール(島根県浜田市)


福光石

緑色凝灰岩「福光石」の石切り場(島根県大田市)


 出雲市から松江市にかけては、島根半島の険しい海岸と、潟湖と平野が広がる宍道湖・中海周辺の穏やかな景観が好対照である。
島根半島は日本海形成期の岩石が分布し、切り立つ海食崖とリアス式海岸を特徴とする。宍道湖と中海は、湾が砂州や三角州で閉ざされてできた潟湖で、汽水環境が独特の生態系を育んでいる。
山陰海岸には他にも東郷湖(湯梨浜町)や湖山池(鳥取市)など幾つかの潟湖が点在している。現在は消滅したものも含め、潟湖には交易拠点として機能したものがあり、米子市の上淀廃寺や益田市の中須西原遺跡などのように海外との交易を彷彿とさせる遺跡が潟湖の近くに存在している。

島根半島

荒波が打ち寄せる島根半島の海岸(島根県出雲市)


宍道湖

宍道湖の静かな夕焼け(島根県松江市)


東郷池

潟湖のひとつ、東郷池(鳥取県湯梨浜町)


 米子市から琴浦町までの海岸は、大山の山麓がそのまま海中へと続いている。海岸から緩やかにスロープを描く広い裾野は大山をより一層雄大に演出する。
鳥取県の中部から東部では、天神川と千代川の河口を中心に砂質海岸が広がり、北条砂丘(北栄町)と鳥取砂丘(鳥取市)が発達する。
砂質海岸の直線的な海岸から一変して、鳥取市以東では入り組んだリアス式海岸が連続する。古第三紀の花崗岩類と日本海拡大期の地層が海岸に露出し、波の浸食作用が作り出した造形が海の青さと相まって美しい景観を演出する。この風景は「山陰海岸ジオパーク」の主要な構成要素になっている。
 隠岐は日本最古級の“隠岐片麻岩”や新第三紀以降の火山噴出物などが分布し、石器材料として使われた“黒曜石”の中国地方唯一の産地でもある。これらの地質的要素と、離島と陸続きを繰り返した地史が育んだ特異な生態系が隠岐の特色である。

鳥取海岸

砂丘が続く鳥取海岸(鳥取県鳥取市)


浦富海岸

浦富海岸の景観(鳥取県岩美町)


火山と温泉

 山陰には新生代第四紀(250万年前〜現在)に活動した火山があり、下関市の六連島から兵庫県北部の玄武洞溶岩などの火山群まで、点々と列をなす。
代表格は大山。中国地方最高峰であると同時に、火山としての規模も群を抜く。100万年前頃に活動を始め、1万数千年前まで断続的に活動を行った火山である。
最も新しい時代に活動した火山は三瓶山で、4000年前に最新の活動を行っている。この時の噴火では、山麓の森林が火山灰に埋もれ、巨木が直立状態で現存する「三瓶小豆原埋没林」が形成された。また、多量の火山灰は、弥生時代の遺跡が集中する出雲平野西部の地形発達に大きな影響を及ぼした。
三瓶山に次いで新しい火山は笠山で、阿武火山群として三瓶山とともに活火山に指定されている。

三瓶山

三瓶山遠景。大田市の鶴降山(537m)山頂より


三瓶小豆原埋没林

三瓶小豆原埋没林の巨木(島根県大田市)


 大田市西部の大江高山火山は、大江高山(808m)を最高峰としていくつもの鐘状火山が集まる。火山群の一角にある仙ノ山(537m)では、火山活動に伴って銀銅鉱床が形成され、16世紀から本格的に開発が進められた。この鉱山が世界を席巻する産銀量を誇った「石見銀山」である。

大江高山

大江高山の山並み(島根県大田市)


石見銀山本体

石見銀山・仙ノ山に残る採掘跡(島根県大田市)


 中海に浮かぶ大根島は、低平な溶岩台地とスコリア丘からなり、水はけが良い土壌を活かして全国一のボタン栽培地になっている。隠岐島後の玄武岩は上部マントル物質を取り込んで噴出しており、地下深部の貴重な情報をもたらしてくれる。津和野町の象徴的な山である青野山(907m)は整った山容が美しく、周囲に点在する火山とともに火山群を構成している。

大根島

中海に浮かぶ平らな島、大根島(島根県松江市)


 温泉が多いことも山陰の特徴である。長門市の湯本温泉、松江市の玉造温泉、三朝町の三朝温泉などは温泉地としての歴史も古く、それぞれの地域の観光の核になっている。温泉津温泉(大田市)は、石見銀山の主要港であった温泉津港に隣接し、温泉街の町並みも含め世界遺産に登録されている。

山陰の火山と温泉

山陰の火山と主な温泉

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