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大田の自然関連講座資料

■「大江高山火山の秘密を探る」講座資料

1.火山とは何か

 火山とは、「マグマ」に由来する物質が地表または水中に噴出する場所またはそれによって形成された地形のことを言います。普通、火山と呼ばれるのは新生代第四紀(258万年前から現在)に活動したもので、これより古いものでも火山地形が残っているものは第三紀火山として区別して呼ばれることがあります。また、火山のなかで、過去1万年間に活動したものは「活火山」に指定されています。

 火山が放出する物質には様々な名称が付けられています。マグマが液体状態で流動して地表に噴出したものを「溶岩」と呼び、固体の破片となって火口から放出されたものは「火砕物」と呼ばれ、粒の大きさや形状、色調などによって、「火山灰」、「火山礫」、「軽石」、「スコリア」などの名称があります。他にも、火口から放出された火山礫を「火山弾」と呼ぶなどの名称があります。

 火山は地球内部の物質循環の一端であり、地球表面の地形や環境に影響を及ぼします。地球表層の硬い岩盤でできた部分は「プレート」と呼ばれ、それは内部の物質循環に伴って移動し、互いにぶつかり合ったり、片方の下に潜り込んだり、新しく生成されたりしています。このプレートの動きは地震を引き起こす原動力であると同時に、火山とも関わりが深いものです。地球上の火山の多くは、プレートの境界部に存在しています。

 日本列島は、大陸プレート(ユーラシアプレートと北アメリカプレート)の下に海洋プレート(太平洋プレートとフィリピン海プレート)が潜り込んでいる場所にあり、この動きによってできた多数の火山があります。

 大陸プレートの下に潜り込んだ海洋プレートは、地下数100kmまで沈み込んで行きます。地下100〜150kmの深さに達した時、海洋プレートを構成する岩石に含まれていた水が放出され、周辺の岩石が若干融けてマグマが生成されます。このマグマが蓄積されるとやがて上昇をはじめ、地表に達すると火山になります。プレート運動によってマグマが生成される深さはほぼ一定で、その深度の部分に火山が列をなして並びます。日本列島では、九州の南から、中国地方の山陰側にかけて並ぶ列と、小笠原諸島から東海、中部、北陸から北海道まで続く列が認められます。このような火山列を、以前は「火山帯」と呼びましたが、現在では、火山が出現する前線という意味で「火山フロント」と呼びます。大江高山火山は、山陰に並ぶ火山のひとつで、西には青野山火山、東には三瓶火山があります。

 プレート境界以外の火山では、マントルから高温物質がわき上がる場所にある「ホットスポット型」の火山や、プレートが形成される「中央海嶺型」の火山があります。

2.マグマの性質と噴火様式、火山地形

 マグマは成分によって性質が異なり、その性質は火山の噴火様式や火山地形に影響を及ぼします。マグマは最も多く含まれる成分である二酸化ケイ素(SiO2)の含有量によって大きく区別され、SiO2の量の違いは粘性の違いに関係しています。

 マグマの区別は、それが冷えてかたまってできた火山岩の名称に準じて、「玄武岩質マグマ」、「安山岩質マグマ」、「デイサイト質マグマ」、「流紋岩質マグマ」に分けられます。玄武岩質マグマはSiO2の含有量が最も少なく52%(火山岩の場合の重量比)以下、順に含有量が多くなり、流紋岩は70%以上のSiO2を含みます。SiO2が少ないマグマは、その分、鉄やアルミニウム、マグネシウム、マンガン、カルシウムなどの成分の割合が多くなり、火山岩では有色鉱物の割合が多く黒っぽい石になります。

 SiO2の含有量が少ないマグマは粘性が低く、多いマグマは粘性が高い性質を持ちます。粘性が最も低い玄武岩質マグマは、溶岩として火口から噴出すると溶岩流として流れ、なだらかな台地状の地形を作ります。島根県では大根島が玄武岩を噴出した火山です。同じ火口で噴火を繰り返すと「成層火山」を作り、富士山が典型例です。粘性が高いデイサイトマグマや流紋岩マグマでは、溶岩はほとんど流れず火口付近で固結して「溶岩円頂丘」や「溶岩尖塔」を作ります。溶岩円頂丘はこんもりと高い地形で、古くは「釣鐘型火山」や「トロイデ火山」という名称も使われました。大江高山火山や三瓶火山は主にデイサイトマグマの活動でできた火山で、溶岩円頂丘群を特徴とします。粘性が高いマグマは流れる速度が遅いため、マグマが膨張する圧力が地下で高まり、それが大規模な爆発的噴火を引き起こすことがあります。爆発的な噴火では、多量の噴出物を一気に空中に放出し、それが大規模な「火砕流」となって広がり、噴火後には陥没型の火口「カルデラ」を形成する場合もあります。

大江高山火山の範囲

大江高山火山の範囲。着色部分が大江高山火山の噴出部分布域。シームレス地質図を使用。

3.大江高山火山について

 大江高山火山は大田市西部に位置し、大江高山(808m)を筆頭に、矢滝城山(645m)、三子山(586m)など大小30峰以上の溶岩円頂丘群で構成されます。唯一、仙ノ山(537m)は「火山砕屑丘」で、このタイプの地形としては国内で最大級のものです。大江高山火山は、多数の峰からなることから「火山群」と呼ばれることもありますが、基本的にはひとつの火山として扱われています。

 大江高山火山の活動は約260万〜70万年前の間に生じました。古い時期には爆発的な大噴火を行ったこともあるらしく、何層かの厚い火砕流堆積物を伴っていますが、大きな火口は残存していません。大部分の峰は、デイサイト溶岩がゆっくり噴出してできた溶岩円頂丘です。活動時期がある程度古いため、浸食が進んだ山体が多いものの、大江高山は比較的良く溶岩円頂丘の特徴を留めています。

 大規模な火山砕屑丘である仙ノ山は、東西方向に長くややなだらかな地形です。この山では、地下に貫入したマグマによって熱水活動が生じ、銀銅鉱床が形成されました。これを開発した鉱山が「石見銀山(明治時代以降は大森鉱山」です。石見銀山の銀銅鉱床は、仙ノ山山頂を中心とする範囲と、西麓の地下深部を中心とする範囲に大別され、それぞれ「福石鉱床」と「永久鉱床」と呼ばれました。前者は銀主体、後者は銅を主体に銀が採掘された鉱床です。火砕岩が鉱染されてできた福石鉱床は、鉱石が広く立体的に分布している特徴があり、採掘効率の高さと鉱物組成の特徴から、16世紀段階の技術で銀を生産することに適しており、当時としては世界での有数の生産量を誇る銀山となり得ました。

以下、2012年3月31日の講座のスライド資料

火山フロントとプレート境界

●活火山と火山フロント
大江高山火山は、中国地方山陰側の火山列上に位置します。火山列は「火山フロント」と呼ばれ、海洋プレートの沈み込みと関連します。

プレート沈み込みとマグマ生成

●マグマの生成と火山
海洋プレートが150km前後の深さまで沈み込むと、岩石の一部が融解してマグマが生成されます。
マグマが一定の深さで生成されるため、プレート沈み込みに関係する火山は列状に並びます。
火山には、プレート沈み込み以外に、ホットスポット型、中央海嶺型、スーパープリュームに伴うものがあります。スーパープリュームとは、突発的にマントル深部から多量のマグマが供給される現象で、日本海裂開はこの現象によって引き起こされたと考えられています。

火山岩の分類と火山地形

●火山岩の分類と火山地形
マグマが地表に達すると、溶岩と呼ばれます。溶岩が固まった岩石が火山岩です。
火山岩は二酸化珪素の多少によって、流紋岩、デイサイト、安山岩、玄武岩に大別されます。二酸化珪素の量が多いマグマ(溶岩)は粘性が高く、少ないと粘性が低いものになります。
火山地形は、溶岩の粘性と噴火様式によって決まります。

福原農道から見た大江高山火山

●福原農道からみた大江高山火山
大江高山を最高峰に、いくつもの火山が集まっています。写真の左端が大江高山、右へ三子山、矢滝城山、仙ノ山、高山などが見えています。
火山群のうち、仙ノ山だけはなだらかな地形で、それ以外はこんもりとした溶岩円頂丘と呼ばれる地形です。

大江高山と三瓶山

●大江高山と三瓶山の地形比較
大江高山と三瓶山はいずれも溶岩円頂丘です。
大江高山と男三瓶山をそれぞれ山頂を通過する東西方向の地形断面を比較すると形状がよく似ています。
このふたつは、山体の規模も似通っています。

大江高山と三瓶山

●大江高山と三瓶山の地形比較
断面図を重ねると両者の地形の類似性がよくわかります。

大江高山

●祖式からみた大江高山
山頂がなだらかで、山腹斜面がやや急傾斜な地形は、溶岩円頂丘の特徴です。

デイサイトの流理構造

●大江高山溶岩の表面に見られる流理
デイサイト溶岩が流れた際に引きずりによってできた縞模様(流理)が明瞭です。
流理は粘性が高い溶岩でよく発達します。写真は冠地区の山中で撮影したもの。

溶岩円頂丘形成イメージ

●溶岩円頂丘の形成イメージ
火口から噴出されたデイサイト溶岩はあまり流れず、その場で高まり(ドーム)を作ります。
ドームは成長と崩壊を繰り返し、噴出場所も変わりながら次第に大きくなり、山体を形成します。

火山規模の比較

●火山規模の比較
大江高山火山の噴出量は約20立方キロメートルと見積もられています。

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