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地層から学ぶ
大地の歴史

■浮布の池の冬期黒色化(予察メモ)

1.経 緯

 2022年1月、浮布の池の水が黒色に変化していることを地元の住民が確認した。2月18日に、「これまでに見たことがないという黒さ。」という連絡があり、20日に現地を確認し、原因について若干検討した。以下、今後のためのメモである。

 近年、この池では夏期のアオコ発生が目立ち、富栄養化の進行が懸念されている。数年前に簡易的に行ったCODの測定では、汚濁状態は極端ではないが、水の色は常に褐色を帯びている。富栄養化の原因は、近年は住宅や農地からの流入負荷は小さく、湖底に蓄積された有機物と、落ち葉など自然由来の有機物が供給されることが主因と推定している。

 2022年2月20日に現地を確認したところ、遠目には「墨液」のように感じる黒さで、浅い部分でも明らかに黒褐色を呈しており、水が黒または黒褐色に着色されていることがわかった。

 着色原因となる物質の流入は考えにくく、湖水以内での化学的、物理的条件によって黒色を発色する物質が湖底から湖水に供給された可能性を推定した。

浮布の池黒色化時の画像

湖水が黒くなった浮布の池。2022年2月20日撮影

浮布の池黒色化時の画像

ボートなどの白い部分と比べると、水が際だって黒いことがわかる。2022年2月20日撮影

浮布の池黒色化時の画像

浅い部分の水の色。水自体が黒褐色を帯びていることがわかる。2022年2月20日撮影

2.原因の推定

 定期的な水質等の測定は実施しておらず、原因推定の根拠は乏しいが、志津見ダム(飯南町)や尾原ダム(雲南市・奥出雲町)の他の事例から下記のことが考えられると、島根大学総合理工学部 三瓶良和教授から助言をいただいた。

・二酸化マンガンの析出

 黒色を発色していることから、原因物質として二酸化マンガンが考えられる。

 湖水は、夏期に上層水の温度が上がって下層水との温度差が生じると、上下方向の混合が起こりにくくなる(温度躍層の形成)。下層水は酸素が乏しい(還元的)状態になり、湖底堆積層からマンガンの溶出が生じる。

 冬期に上下層の温度差が解消されると水が循環し、下層水に含まれていたマンガンが上層にももたらされ、そこで酸化して二酸化マンガンの微粒子になる。これが黒色の原因と推定される。

 三瓶山の地下水は、地点によってマンガン濃度が高い。志津見ダムでは下層のマンガン濃度が高い水が存在し、やはり冬期に黒色化が認められることがある。

・有機物由来の着色

 夏期の浮布の池の水は褐色を帯びており、これは有機物由来と考えられる。落ち葉などの分解によって生じるフミン酸は赤褐色〜黒褐色を呈しており、着色の原因になる。

・2022年冬の黒色化

 黒色化の原因は、原因物質の湖底からの溶出が原因と推定されるが、2022年冬に限って黒色化が発生した理由が不明である。当期に限って生じた現象ではなく、原因物質の溶出自体はこれまでも生じており、何らかの条件が揃ったことでその量が増えたと考えるのが妥当と思われる。

 マンガンが原因と仮定した場合、その溶出量と沈澱量が多かったことになる。

 下層が還元的環境になった時にマンガンの溶出が生じる。前段階として湖底堆積層中の間隙水にマンガンが溶けて表層まで上昇し、それが低層水に溶出する。この作用が例年以上に働くことが、溶出するマンガンの総量増加につながることが考えられる。夏期に上層水の高温が長期間安定的に維持され、還元的な(無酸素の)下層水の割合が増し、それが長期間維持されたのかも知れない。気象条件とともに、富栄養化による生物生産量(酸素消費量)も影響した可能性がある。

 なお、2021年1月に結氷した際、湖岸付近を歩くと積雪に湖水が染みこみ、黒く見えたことがある。これまでも、冬期にはある程度の黒色化が生じていた可能性があるだろう。

3.今後の影響と対策

 原因が仮説段階のため、今後への影響予測は難しいが、二酸化マンガンの場合、やがて沈澱するため元の水色に戻るとみられる。

 マンガンは自然由来のもので湖底に蓄積されているため、黒色化を防ぐ根本的な対策は難しい。環境に悪影響を及ぼすレベルであれば対策が必要であるが、景観上の問題に限られるのではないだろうか。

 富栄養化対策を兼ねて、湖水の排出量を増やして交換率を上げ、水中に混濁している物質をなるべく放出することが望ましいと思われる。

浮布の池黒色化時の画像

湖水の動態と水環境のイメージ図

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