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出前授業資料

■地層学習「久屋小学校周辺の地層」資料

はじめに

 大田市立久屋小学校(以下、久屋小)は大田市のおおよそ真ん中あたりにあり、久利町と大屋町がその校区にあたります。標高150m前後までのそれほど高くない山が多く、平らな土地は銀山川沿いなどに限られ、全体にでこぼこした地形です。このような地形は丘陵地帯と呼ぶことがあります。
 学校や家の周辺では岩がむき出しになった崖はあまり見ることができず、「地層」が近くにあるという実感はないかも知れません。しかし、みなさんが暮らしている土地の周囲にも地層があります。レキや砂、火山灰が積み重なった地層や、マグマが冷えて固まったりした岩石がみなさんが暮らす大地を作っているのです。
 ここでは、久屋小の周辺の大地にどのような特徴があるかを紹介しましょう。

久屋小地層学習スライド

この地図は「地質図」というもので、その場所にある岩石(地層)を、種類や時代によって区別して色分けしたものです。久屋小の周辺にはピンク色、緑色、青色に塗られた部分が目立ちます。ピンク色は凝灰岩類、緑色は安山岩、青色は泥岩という岩石がある範囲を示しています。

周辺の地層のあらまし

 久屋小校区には、約1500万年前の火山が噴き出した火山灰が固まった石(凝灰岩)と同じ時代の安山岩(溶岩が冷えて固まった石の一種)、泥岩が広い範囲に分布しています。これらの岩石ができた時代は、日本列島ができたばかりの時代です。日本列島は2500万年前頃から1500万年前頃にかけての地殻変動でできました。この時代に大陸の一部分が移動して島が生まれ、大陸と島の間が日本海になったのです。この地殻変動の間は火山が盛んに噴火しました。久屋小の周辺にある凝灰岩や安山岩は、大地が変化を続けていた時に海底や海岸で噴火した火山の噴出物で、泥岩はできたばかりの日本海の底にたまった泥の地層なのです。
 大田市全体でみても、同じ時代の火山の噴出物が広い範囲に分布しています。また、西には大江高山火山、東には三瓶火山があり、その噴出物も広く分布しています。いくつかの時代の火山があることは、大田市の大地の大きな特徴で、役に立つ幾つもの資源をもたらしてくれました。

明治から昭和の日本を支えた石こう鉱山

 久屋小周辺の地層の大きな特徴として、石こうという鉱物資源を含んでいることがあります。石こうは建物の天井や壁などに使われる「石こうボード」に使われるほか、工作の材料、漢方薬などに幅広く使われます。ビルや橋、道路を作るために欠かすことができないセメントにも石こうは欠かせない資源です。
 1960年代までは地層から掘りだされた天然の石こうが多く使われ、島根県産の石こうは全国の生産量の半分以上を占めていました。その石こうが掘られたのが大田市と出雲市の鉱山でした。松代鉱山(久利町)と鬼村鉱山(大屋町)はその代表でした。久屋小の校区から掘り出された石こうの多くは、静間駅から山口県のセメント工場に運ばれてセメントに加工され、明治時代から高度成長期という時代にかけて全国で作られた建物などに使われたのです。

久屋小地層学習スライド

松代鉱山跡の山中に落ちている石こう(白い部分。百円玉は大きさのめやす)。石こうは泥岩の地層と凝灰岩の地層の境界あたりにあり、地下の坑道で掘り進められました。松代鉱山の坑道は現在は閉じられていて入ることはできません。

久屋小地層学習スライド

静間駅に残る石こう運搬用のホーム。左側の砂利の部分に貨物列車専用の線路があり、石こうが積み込まれました。松代鉱山と鬼村鉱山で石こうが盛んに掘られていた時代は、このホームは石こうの白い粉で真っ白だったといいます。

世界的な貴重品

 石こうを産出した松代鉱山では、世界でもここでしか見つかっていない大変珍しい鉱物の結晶が採れました。あられ石という鉱物で、大きなものはサッカーボールほどの大きさがあり、表面は小さな菊の花を集めたような模様です。この形と大きさが大変貴重で、日本の鉱物標本を代表するもののひとつです。  大変珍しいあられ石ですが、資源としては役に立たず、石こうを掘っていた時は大きなものが出てくると記念品や標本用に保管されましたが、小さく形が悪いものはそのまま捨てられていたそうです。久利町内では家にあられ石があるというお宅が多くあり、少し前までは貴重品であることはあまり知られていませんでした。「開運!なんでも鑑定団」という番組で取り上げられて高い値段が付けられた時、初めてそれが貴重品だと知って驚いた人が多かったのです。

久屋小地層学習スライド

あられ石の標本。日本を代表する自然史博物館の国立科学博物館の鉱物展示室で、入口前の単独のケースに展示されているものです。ここに並んでいるのはいずれも日本を代表する標本ばかりで、松代鉱山のあられ石はそれらと肩を並べる存在です。

鬼村の鬼岩の奇妙な形

 大屋町の鬼村の道路脇にそびえる「鬼村の鬼岩」は、岩の塔のようで目を引き、最近は見学に訪れる人が多くなっています。この岩は、約1500万年前の火山が噴出した火山灰が堆積した凝灰岩で、キノコのように上が広がった形と横の面に並ぶ穴が特徴です。

 上が広がった形と穴は、「塩類風化」という現象で形成されたものです。この現象は、水に溶けた塩類(いわゆる塩のほか、石こう、ミョウバンなど)が乾燥して結晶になる時、霜柱のように岩石を少しずつ破壊する現象です。海岸では海水に含まれる塩類によって塩類風化が進行するため、五十猛町の海岸あたりでは似たような穴が空いた岩が多く見られますが、海から離れた場所で見られるのは珍しいことです。この岩を作る地層には、火山の影響によって塩類が多く含まれていて、それが雨水に溶け出したり乾いたりすることで横の面がえぐれたように削られたり、穴が空いたと考えられています。

久屋小地層学習スライド

鬼村の鬼岩。塩類風化でできた穴は、山に住んでいた鬼が岩をつかんだ時の指の跡という伝説が伝わり、地元では昔から岩が大切にされてきました。島根県の天然記念物に指定されて以来、少しずつ注目されるようになり、テレビ番組で取り上げられたり、本や雑誌に掲載されることが増えています。

広くたくさん使われた赤波石

 久利町赤波では、山のあちらこちらに石切り場の跡が残ります。ここに分布する約1500万年前の凝灰岩は、石垣や建物の土台などに使う石にちょうど良いかたさと品質で、江戸時代から1960年まで盛んに掘り出されました。その石は石見銀山の古い町並みが残る大森町でも多く使われています。石見銀山に関係する石材としては温泉津町福光で今も採られている「福光石」がよく知られていますが、大森町では赤波石のほうがたくさん使われていると思われます。目立つところでは、町並みの入口付近にある城上神社の拝殿や熊谷家住宅の石垣はこの石で作られています。久利町から大田町にかけてもこの石が多く使われ、三瓶川の堤防や町なかのあちらこちらの石垣で赤波石を見ることができます。たくさん使われた赤波石ですが、コンクリート製のブロックが安く大量に使われるようになると需要がなくなり、石切り場は廃れてしまいました。  赤波石が重要な石であることに気づいたきっかけは、以前に久屋小を訪問した時に当時の6年生から「赤波石とは何ですか?」という質問をもらったことでした。初めて聞く名前でどういうものか全くわからなかったのですが、ずっと気になっていました。ある時、「先祖が石屋で、いい石を求めて久利に引っ越した。」という話を聞き、その石こそ赤波石ではないかと思って調べたところ、「赤波のあゆみ」という小さな冊子にたどり着き、石切り場がたくさんあることや城上神社などに使われたことがわかりました。

久屋小地層学習スライド

赤波石の石切り場。山の中にはこのような石切り場の跡が何ヶ所も残り、たくさんの石が切り出されたことがわかります。大田市内だけでなく、松江あたりまで運ばれて使われることもあったようです。

久屋小地層学習スライド

大森町の城上神社の拝殿。「鳴き竜」で知られる拝殿が立つ土台は、赤波石で石垣を組んで作られています。この石垣は細かな細工が施されていて、赤波石を使った石工の技術がうかがわれます。

火山が作った世界的銀山

 久屋小の隣にあたる大森町の石見銀山は、16世紀に世界の経済と文化交流に影響を与えた銀鉱山です。日本の世界遺産の中でも、世界とのつながりと影響という点では石見銀山に並ぶものはない、まさに世界的な存在です。
 この銀鉱山を生み出したのは火山でした。大江高山火山は約200〜100万年前に活動した火山で、たくさんの峰を作りました。そのひとつが仙ノ山で、火山の峰に湧き出した温泉が地下から銀を運んで鉱石を作りました。その鉱石は当時の技術で掘り出したり、銀を取り出す作業を行うのに適したものだったので、銀の量産に成功したのです。
 石見銀山の鉱床は国内では他に例をみない特殊なもので、それは火山ならではの特徴です。もし、この銀山が他の鉱山と同じようなタイプの鉱床だったら世界に影響するほどの銀の量産はなかったでしょう。石見銀山の歴史は、火山が作り出した鉱石から始まったのです。

久屋小学校地層学習スライド

仁摩町の沖から見た大江高山火山の全景。左端にあるなだらかな山が石見銀山の仙ノ山です。

久屋小学校地層学習スライド

石見銀山の大久保間歩の奥にある大空間。現在、この近くまで立ち入ることができます。この空間のさらに奥には「福石場」と呼ばれた大空間があり、石見銀山での銀の量産を象徴する存在です。

このページは2017年11月16日に大田市立久屋小学校6年生を対象に学校周辺の地層を紹介した際に作成した資料を再整理して作成したものです。
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