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出前授業資料

■三瓶温泉をカガクする

 温泉は地下からわき出す温かい湯だ。
 どうして温かいのか、どうやって湯が出てくるのか、地下のことは見えないから温泉のことを知るのは難しい。わからないことだらけだ。「同位体分析」という元素レベルの分析によって温泉の水がどこからやって来たかを知る手がかりが得られるようになったのは比較的最近のこと。同位体分析という言葉からして難しそうだろ?
 高度な分析技術を使っても、めやす程度がやっとで、はっきりとはわからない。温泉は難しいのだ。今回、温泉についてのほんの入口を紹介する。詳しいことは、これからみんなで調べてくれることに期待するという、かなり投げやりな三瓶温泉のカガクだが許して欲しい。

温泉ってなんだ?

 「温泉は地下からわき出す温かい湯だ。」と書いた。
 確かにそうなのだけど、正確ではない。昔は自然にわき出てくる温泉しかなかったのだけど、ボーリングという地下深く掘る技術が発達し、ポンプなんてものが使われるようになってからは地下深くからくみ上げる温泉が多くなっている。地下1000mよりさらに深くからくみ上げている温泉もあるのだ。
 余談だが、日本で温泉が一気に増えた時期があり、それは島根県出身の竹下登氏が総理大臣だった1988年のこと。「ふるさと創生」という名のもと、市町村にそれぞれ1億円を配ったんだ。当時、地下1000mの温泉ボーリングにかかる費用がちょうど1億円くらい。あちらこちらで温泉探しが行われたのだ。なぜ1000m掘ったのかは、この後の話でわかるはずだから、ここでは説明しない。

 さて話を戻そう。ポンプでくみ上げる湯であっても、それが温かいのであれば温泉であることがわかりやすいけれど、冷たくても温泉を名乗ることができるからややこしい。
 温泉の基準では、わき出た時(くみ上げた時)の温度が25℃以上あるか、定められた成分のうちひとつでも基準に達していれば温泉ということになる。冷たいものは「鉱泉」、「冷泉」という言葉が使われることもあるけれど、全部ひとくくりで温泉なのだ。
 ちなみに、三瓶温泉は自然にわき出していて、温度は37℃くらい、成分もいろいろ含んでいる。それが1分間に3000リットルもわき出るという豊富な湯量。これはまごう事なき温泉と言える。

三瓶温泉の泉源と湯谷川

三瓶温泉の泉源とわき出た湯が流れる湯谷川。(泉源は立ち入り禁止です。現在、画像の横穴は施錠されています)

温泉法に基づく温泉の条件

温泉法が定めた条件を満たしたものが法律上の「温泉」とされます。温泉法では源泉温度が25℃以上か、定められた成分の条件をひとつでも満たしていれば温泉(鉱泉)になります。

誰が水を温めたのか

 湯は温かい水だ。水は温めなければ湯にならない。
 では、温泉の湯を温めたのは誰なのだ? 地下に「湯婆婆(ゆば〜ば)」がいるわけではないよね。
 温泉は、どうやって温まったかによって「火山性温泉」と「非火山性温泉」に区別されることがある。実際には地面の下のことはわからないから、この分け方にはあいまいな部分があるのだけど、おおざっぱなイメージとしてはこの分け方で良いのだろう。火山性温泉は、火山に関係するマグマの熱で温められたもので、その他の理由で温められたものは非火山性温泉という区別だ。
 三瓶温泉の場合、活火山である三瓶山の中腹からわき出しているので、「火山性温泉」であることはたしかだろう。

 三瓶山の火山としての歴史をみると、新しいところでは約4000年前と約5500年前に噴火している。その噴火の原因となったマグマは全て地上に出たわけではなく、かなりの部分が地下に残っているはずだ。その残ったマグマは噴火を起こすほど熱くなく、かなり冷えて硬い岩石になっているとはいえ、中心付近は100℃以上の温度が残っていると思われる。地面の下の深いところにあるマグマは、そう簡単には冷えないのだ。このマグマの熱が三瓶温泉を温めていると考えられるのだ。
 三瓶温泉は源泉の温度で37℃くらいしかなく、風呂としてはかなりぬるめ。適温とされる40℃前後にするには、ボイラーで温める必要があるね。
 「非火山性温泉」は三瓶温泉の説明とは関係ないけれど、これについても少し考えてみよう。

 火山のマグマが水を温めるという話はわかりやすいと思う。でも、火山がない地域にも温かい温泉はあり、温度が100℃近い非火山性温泉だってあるんだ。この水を温めているのは一体誰なのだろう?
 火山とは無縁の地域で温かい温泉がわく理由は単純ではないのだけど、ここでは思い切りよく単純にして、2つの理由に分けてみよう。
 ひとつは「なんらかの熱源」がある場合だ。熱の元になる熱源がないなんてことはないんだけど、単純化するためにあえてそう言ってしまおう。
 「なんらかの熱源」として、地上に火山はなくても地下にマグマがある場合が考えられる。マグマが地上まで上昇せずに地下で止まってしまうことは珍しくないと考えられ、そういったマグマが水を温める熱源になることは十分にあり得る。中国地方では山口県から島根県、鳥取県に火山が並んでいて、この地域は近くに火山がない温泉も多い。火山の列の地下にはマグマが生まれる場所があり、地上に出てきていないマグマがある可能性が高い。
 「なんらかの熱源」にはもうひとつ、ずっと古い時代にマグマが固まってできた岩石が考えられる。これもマグマと一緒にしても良いかも知れないけど、数1000万年前にできた花こう岩が熱源と考えられている温泉もあり、さすがにマグマと呼ぶには古すぎる。

 さて、熱源がある場合は良いけれど、これといった熱源がない場合もある。
 「いやいや、熱いもんがないと湯にはならんだろう。」とあせることなかれ。これといった熱源はなくても、地下は深くなるにつれて温度があがり、すごく深い部分はすごく温度が高い。
 日本列島では、だいたい地下100m深くなるごとに3℃ほど温度が高くなる。500mで15℃、1000mでは30℃だ。地表付近の温度が15℃くらいだから、1000m下では15℃+30℃=45℃になる。
 さっき、温泉の基準は何℃って書いてあった? 25℃あれば温泉なんだよ。500mも掘れば温度は25℃にとどく。1000m掘れば、風呂にはちょっと熱めの45℃の立派な温泉というわけだ。つまり、1000mの地下に使えるだけの湯量があれば、どこでも温泉になるということだ。

地熱による温泉のイメージ

日本列島では、地下は100m深くなるごとに平均3℃ずつ温度が上昇します。そのため、深い場所にある水をくみ上げることができたら、どこでも温泉が得られます。

湯はどこからやって来た?

 温泉を温めたのは、マグマか、岩石に残る熱か、地下深くの温度か、このいずれかであることはわかった。
 では、温泉の湯のもとになる水はどこから来るのだろう?
 温泉の水の起源は、温泉の基本中の基本のような話だけど、はじめに書いたとおりその手がかりが得られるようになったのは最近のことだ。以前は、2つの説が対立していたという。
 水の起源として考えられてきた2つは、マグマの中の水と地下深くに染みこんだ地下水だ。今は地下水が大部分だが、マグマの中の水が混じっていることもあると考えられている。
 ここで少し意味がわからない言葉が出てきた。「マグマの中の水」だ。マグマは岩石が1000℃を超える高温で溶けたもの。そんなものに水が入っているのか?

 水は100℃で沸騰してガス(水蒸気)になる。マグマの中に含まれることなどできそうにないけど、地下深くにあって大変な圧力がかかっているマグマには水が含まれるのだ。それも大量に含まれる。その水は、かつて海の底にたまった堆積岩からやってくる。ちょっと想像を超えた世界かも知れないが、とにかくマグマには水が含まれる。
 地下深くにマグマがある時、水はマグマの中に閉じ込められているけれど、マグマが上昇して圧力が低下すると外に出てくる。これが温泉のもとの候補というわけだ。
 マグマに大量の水が含まれると言っても、新しいマグマが次々にやってこないと水もなくなってしまいそうだ。温泉のもとして、マグマの中の水よりももっと多いと思われる水が、地下深くに染みこんだ地下水だ。
 地表に降った雨は、川から海へ短時間で流れてしまうものと、地中に染みこむものがある。川や湖にある水の量に比べて、地下にたくわえられた地下水の量ははるかに多い。その一部はわき水になって再び地上に流れ出るが、一部はさらに深く染みこんでいく。その水がマグマや地下の熱で温められて温泉になるのだ。

 三瓶山の場合、山の部分はひび割れだらけの溶岩と火山灰などの土砂でできているので、雨水が染みこみやすい。さらに、山の下の岩盤は、何回も噴火が繰り返されたことでボロボロになっていると考えられる。そこに染みこんだ水がマグマの熱で温められたのだ。染みこみやすさとマグマの熱。これが三瓶温泉の豊富な湯量を支えていると考えられる。
 地下深くに染みこんだ水には、周辺の岩盤の成分が溶け込んでいく。冷たい水には岩石の成分はそんなに溶けないけど、それでも長い時間がたつと岩石も溶ける。さらに、水の温度が高ければ溶ける量が多くなる。温度が高い温泉でも、湯に溶けている成分の量にはばらつきがある。単純泉と呼ばれるものなどは岩石の成分はあまり含まない。三瓶温泉の場合、カルシウムやナトリウム、鉄などを大量に含み、湯船にためると底が見えないくらい濁っている。地下水をたくわえている岩盤が、溶けやすい成分の岩石でできているのかも知れない。
 なお、地下深部の岩盤からしぼり出されるように出てくる「プレート水」というものや、昔の海水を含んだ地層からやってくる「化石海水」も温泉に影響している場合があると考えられているけれど、このことは一旦おいておこう。

温泉の水(湯)が供給されるイメージ

温泉の水(湯)が供給されるイメージ。地下に染みこんだ地下水が温泉水の大部分ですが、火山性温泉ではマグマから供給される水や、プレートの沈み込み帯では深部でプレートから絞り出されたプレート水が温泉になっていることがあると考えられます。堆積岩類が分布する地域では、化石海水と呼ばれる地層中の水が温泉になることもあります。

長崎県雲仙温泉の雲仙地獄

長崎県雲仙温泉の雲仙地獄。雲仙火山の地下にある高温のマグマに由来する温泉は、地表で100℃近い温度があります。雲仙温泉のように高温のマグマに由来する温泉はイオウ分をともなうことが多く、「卵が腐ったような臭い」と例えられる硫化水素臭や、二酸化硫黄の刺激臭が感じられます。

なぜわき出てくるの?

 三瓶温泉は、孫三瓶山の南の谷(湯ノ谷)に源泉があり、1分間に3000リットルもの湯がわき出ている。25mプールを3時間でいっぱいにできる量だから、温泉宿や共同湯はその一部を使えば十分足りる。ほとんどは川に流れているのだから、もったいないと言えばもったいない。ちなみに、自然にわき出る湯の量としては、中国地方では岡山県の湯原温泉をおさえて堂々の一位、「中国大会優勝」だ。まあ、全国にはまだまだ上を行く「強豪」温泉がいくつもあるけどね。
 さて、湯量のことは置いておいて、地下深くで温まった湯がわき出る理由を考えてみたい。さっき、湯のもとは深く染みこんだ地下水が多いと書いた。下へ、下へと染みこんだ水が温泉水になったら上がってきてわき出るって不思議だよね?

 三瓶温泉の場合は、マグマが地下のわりと浅い場所にあると思われるけれど、それでも孫三瓶山の上のあたりに熱いマグマがあるわけではない。山の下に、おそらく数kmの深さだろう。湯はある程度深い場所から上昇して地表にわき出しているのだ。地下でも重力が働いているから、地下水は下へ下へと染みこむ。それに逆らって上昇するには、何かの力が必要だ。
 温泉の湯を地上に押し上げる力の候補は、ガスの圧力だ。ここで言うガスとは、水蒸気や二酸化炭素などの気体(gas)という意味だ。
 ガスが湯を押し上げると言っても、想像できないかも知れない。身近な例があまりないのだけど、サイフォン式のコーヒーメーカーを知っているだろうか? こだわりの喫茶店あたりに行かないと使われていないので、見たことがない人が多いかも知れない。でも、これが湯を押し上げる例としてぴったりなので、コーヒーメーカーで説明しよう。

サイフォン式コーヒーメーカーの仕組み

サイフォン式のコーヒーメーカーは、水が沸騰して水蒸気になった時に膨張する仕組みを使って水を押し上げてコーヒーを作ります。温泉も水蒸気や二酸化炭素などのガス圧が高まることで水に圧力がかかり、地下から上昇すると考えられます。

 このコーヒーメーカーは、上下2つのガラス容器に分かれている。上の容器は「じょうご(ロート)」のように管が伸びていて、その管を下の容器に差し込んだ状態でぴたっとつなげる。下の容器は丸くて、そこに水を入れる。コーヒーの粉は上の容器に入れる。管の部分にフィルターがあるので下には落ちない。この状態になったら準備完了。次に、アルコールランプなどを使って、下の容器の水を温める。温度が高くなって水が沸騰するようになるとあら不思議、下の容器の水は管を通って上の容器に移動をはじめる。
 水が移動する理由はガス。下の容器の水が沸騰してガス(水蒸気)になると、その体積は1700倍にふくらむ。下の容器はぴたっと閉じているので、ガスは水面を強く押す。すると、押された水は管を通って上昇するというしくみなのだ。

 サイフォン式のコーヒーメーカーと同じようなことが温泉の地下で起きている。三瓶温泉の場合は二酸化炭素をたくさん含んでいるので、これもふくらもうとして湯に力を加える。コーラなどの炭酸飲料が一気に泡立って吹きだすことがあるけれど、それと似ている。
 水蒸気、二酸化炭素、あるいは他のガスの場合もあるだろう。そのガスがふくらむ力が、温泉を地表まで押し上げるのだ。まれに、一定の間隔で湯を高く吹き上げる間欠泉というものがある。島根県にもあり、吉賀町の木部谷温泉では20分に1回、1.5mほどの高さに湯を吹き上げる。湯がたまっている場所の形とガスのたまり具合によって、そのような現象が起きるのだろう。
 ガスが温泉を押し上げる。いろいろな作用が温泉を生み出すんだね。
 じゃあ、今回の温泉のカガクはここまで。

島根県吉賀町の木部谷温泉

島根県吉賀町の木部谷温泉は、約20分の間隔で温泉を噴出する間欠泉です。噴出する原動力は二酸化炭素などのガス成分と考えられ、地下の温泉水が上昇する仕組みを知る手がかりになります。

三瓶山周辺の温泉

三瓶山の周辺にはいくつもの温泉があります。成分はそれぞれ異なりますが、二酸化炭素を含むにごり湯という点では共通しています。

池田ラジウム鉱泉と地質の関係

三瓶山の西にある池田ラジウム鉱泉は放射線量が高い温泉です。この温泉は花崗岩が分布する地域(右の地質図でピンク色で塗られた部分)にあります。花崗岩はウランなどの放射性物質を多く含んでおり、この岩石の分布域にはしばしば放射線量が高い温泉があります。

        
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