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大田の地形と地質

■地理院地図で大田を見る〜情報豊富な便利マップ〜

はじめに

地理院地図は国土地理院が公開している地図関係の電子情報で、旧来の5万分の1および2万5千分の1地形図の情報に加えて、土地の起伏など各種の情報が盛り込まれていて、利用者が情報を選択して必要に応じた地図を作成することができます。いくつかの機能を使うだけでも、地図から様々な情報を得ることができる大変便利な地図です。
 このページでは、地理院地図で作成した大田市の地図を示しながら、そこから読み取ることができる地形の特徴や地史的な背景を紹介します。

大田市の地図

【図1】標準的な地図。初期状態ではこの地図が表示されます。表示する縮尺によって情報の密度は自動的に変化します。

大田市の地図

【図2】白地図を表示させると市町村県名とその境界が表示されます。地図上に情報を新たに書き加えて、そのデータを書き出して保存し、再び読み込むことも可能です。以下の地図で示している大田市の境界線は、この白地図を「線」ツールを使って簡便にトレースしたものです。

土地の起伏を見る

 下の図3は、「標高・土地の凹凸」というメニューで「色別標高図」を表示したものです。標高による色分けに加えて陰影があることから高低がよくわかり、これだけでも十分地形を読み取ることができます。

大田市の地図

【図3】大田市付近の色別標高図。

 図4は「傾斜量図」という少し特殊な地図です。土地の傾斜量を濃淡で示してあり、色が濃い部分は傾斜が大きく、薄い部分は傾斜が小さいことを示しています。この図を見ると、三瓶山(図中の1)は、峰の部分の傾斜が大きく、峰に囲まれた室ノ内と、峰を取り巻く周囲が傾斜が小さい平坦な地形であることがよくわかります。室ノ内は最終段階の噴火を起こした火口、周囲の平坦地はカルデラの範囲とほぼ一致します。図中の2は大江高山火山の山群を示していて、この一帯は大田市内では特に傾斜が大きい地域であることがわかると思います。大江高山火山の山群の東(地図中の右)はやや色が薄い範囲が広がっていて、ここは尾根の高度がほぼそろった準平原地形です。水上町から久利町、美郷町にかけての範囲で、日常の視線ではそれなりの起伏を感じて平坦地とは思えませんが、仙ノ山の展望所など見晴らしが良い高台から俯瞰すると尾根の高度が一定の平らな地形であることに気づくことができます。
 図中3aは静間川、3bは三瓶川で、2つの河川の合流部よりも上流側に広めの平野が広がっている様子がわかります。特に静間川は流程的には中流にあたる川合町まで平野が続きます。図中4の平坦地は久手町と波根町にまたがる範囲です。図中5は仁摩町仁万の平地です。この図で見ると、大田市は丘陵地帯が広い範囲を占め、海岸平野に乏しいことがわかります。

大田市の地図

【図4】大田市付近の傾斜量図。

 図5は、「自分で作る色別標高図」で久手町から波根町の範囲を示したものです。この機能では、任意の標高(最低単位0.5m)で色分けした地図を作成することができ、その土地の標高分布を詳しく見ることができます。図5では、標高0m未満、2.5m未満・・・と、2.5mごとに12.5mまでを色分けしています。
 この図で注目すべきは、濃い青で示した部分は標高0m未満、つまり海面高度下(厳密には標高0mと海面高度には地域によって若干の差があります)の土地が広がっていることです。0m未満の範囲と0〜2.5mの範囲の一部は、1950年まで「波根湖」だった部分で、海面より低い湖底を用水によって陸化しているために、標高0m未満の土地が存在するのです。

大田市の地図

【図5】久手町から波根町にかけての色別標高図。濃い青の部分が標高0m未満の土地。赤い部分は標高12.5m以上。

 図6は「赤色立体地図」で大田市付近を見たものです。地形の起伏がよく分かると思います。様々な情報が得られる地図ですが、ここでは直線的な地形に注目してみます。直線的な地形は多くの場合、断層や褶曲軸といった構造を反映しています。防災面での活断層調査の第一歩は、直線的な地形を探す地形判読から始まります。
 図7には、図6で見える直線的地形の主なものを書き加えており、見比べると地形に隠された直線が見えてくるでしょう。図7のA−A'は、川合町忍原(A付近)から大江高山(A'付近)までで、忍原川が流れる谷と大江高山の尾根筋が線上に重なってきます。B−B'は祖式川が流れる谷で、矢滝城山(B付近)から直線的に南東へ続き、この線はA-A'交わります。C-C'は銀山川が流れる谷、D−D'は赤波川が流れる谷です。この2本はほぼ平行しています。
 これらの直線地形に注目すると、大田市付近では北東−南西方向の構造が目立つようです。

大田市の地図

【図6】赤色立体地図で見た大田市付近の地形。地理院地図ではアジア航測株式会社の特許による赤色立体地図を表示できます。

大田市の地図

【図7】赤色立体地図で見た大田市付近の地形に、直線的な地形の位置を示したもの。4本の線で示した部分を図6と見比べてみてください。

 図8には少し広い範囲を示し、A-A'の線を残しています。このスケールで見ると、大田市付近の海岸線も北東-南西方向に伸びています。また、江の川の流れは美郷町粕淵で大きく西へ曲がり、川本町因原にかけてやはりこの方向に直線的に流れています。大田市付近の直線地形が示す方向は、海岸線や江の川の流れとも平行しているのです。
 粕淵で西へ大きく曲がる江の川の流れについて、以前は「三瓶山の噴火で流れが曲がった。」という説がありました。しかし、どうやら粕淵から因原の間は、構造運動(断層活動や隆起、沈降など)に起因する直線地形に沿って流れていて、三瓶山とは関係なさそうであることもこの地図から想像できます。北東-南西方向の構造は、大田市以西の中国山地全体で卓越する方向で、大きなスケールでの構造運動と関係しているようです。大田市付近の直線地形も、その構造運動と関連して形成された断層等に関わっていると考えられます。

 以上、地理院地図から読み取ることができる地形情報の一例を紹介しました。解析が不十分ではありますが、地形判読の方法が何となくイメージできたでしょうか。この地図を効果的に用いることで、より詳しい自然誌史の情報が得られることでしょう。

大田市の地図

【図8】海岸から江の川までの広い範囲の赤色立体地図。

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