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調査記録などのメモ

■石見銀山を明日へ〜官民協働のまちづくり〜

 今年(2022年)、石見銀山遺跡は世界遺産登録15周年を迎えた。登録の前後には観光客数が急増して混乱する場面もあったが、今は落ち着き、静けさを取り戻している。その状況を「寂れた」と受け取る向きもあるだろうが、遺跡の中心地で古い町並みが残る大田市大森町には活気と活力がある。住民と町内の企業が暮らしと遺跡に関わるさまざまな活動を行い、その町に魅力を感じて移住してきた若い世代が少なくない。人口減を食い止め、世代交代が起きている町である。同じく遺跡地内の大田市温泉津町も活気があり、2つの町は歴史文化を守りながら新しい価値を生み出す力を持っている。

 二つの町の活力は、住民が町に関心を持ち、誇りを感じていることに由来すると感じる。大森町は住民が文化財保存会を立ち上げてから65年にもなる。昨日や今日の付け焼刃ではない。長年にわたる地道な取り組みが町並みの史跡指定から世界遺産登録までの道を切り開き、現在の活気につながっている。文化庁が進める「文化財保存活用地域計画」の何歩か先を進んでおり、周辺の町にとっては良いお手本である。

 世界遺産登録に先立って、登録後の地域のあり方を市民と行政が意見を交わした官民協働会議は、住民が主導した大森町の取り組みを念頭に置いたものだった。この会議で地域への関心と誇りを育むための教育が発案され、「石見銀山学習」として実現した。大田市全域の歴史の中核である石見銀山を全小中学校が学ぶ学習で、今年で13年目になる。学習の財源は官民協働会議で発案された基金で、市民、企業からの寄付と行政の拠出金で成り立っている。市民が学びを支えているのだ。

 石見銀山学習は地域の担い手育成を目的とするものではないが、学習を経験した子どもたちが担い手世代になった時のまちづくりに生きることを期待するくらいは許されるだろう。

 15周年は小さな通過点。石見銀山を地域の未来に生かす地道な取り組みはこれからも続く。

中村唯史(NPO法人石見銀山協働会議)

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