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調査記録などのメモ

■地域の宝物探し

 本当に大切なものは身近なところにある。童話「青い鳥」のメッセージは、地域の元気創出にもあてはまるのではないだろうか。自然環境、歴史、文化など、その地域ならではの要素の中に「原石」が潜み、それを見いだして磨きをかける住民の存在によって宝物が輝き始める。そのような宝物を手にした地域には活力がある。地域の宝物探しをしたい。そんな気持ちで、島根県大田市の住民として暮らしている。

 大田市には、石見銀山と三瓶山がある。いずれも大きな宝物で、とりわけ石見銀山は世界遺産として一定の評価が確立されている。しかし、その評価は始めから存在したわけではない。昭和初期に、中学教師の山根俊久氏が独自に調査を行い、価値を指摘したことに始まり、大森町民の長年の自主的な保護活動など、市民の尽力があったことで価値が確立された。その経緯がなければ、世界遺産という冠が付くこともなかったかも知れない。宝物探しの先駆例が大田市にある。

 ところで、現在の石見銀山は多くの来訪者が訪れる観光地になっているが、これがゴールではない。本質的な価値の解明や持続的な保全活動によって、輝きに磨きをかける作業は始まったばかりだ。その輝きを、分かりやすい言葉で伝え、住民や来訪者に魅力を感じてもらうという大切な作業もある。このような作業に参加する機会が得られることは、その地域の住民として嬉しく思う。

 もちろん、大田地域の宝物探しは石見銀山に限ったことではない。三瓶山の魅力も、まだまだ知られていない面がある。他のエリアにも原石がいくつも潜んでいそうだ。宝物を探すにあたり、大田地域で鍵となる要素のひとつが「火山」。当地には、日本列島が形成された大変動の時代の火山岩類が広く分布する。また、中国地方で最も若い火山である三瓶山とその兄貴分の大江高山火山がある。学生時代に地質学を学んだおかげで、地学的な宝物探しには若干目が慣れている。宝物探しを通じて、地域学習や観光振興の一助となれたら幸いである。

2013年、山陰経済経営研究所発行の季刊誌に寄稿した原稿。

筆者略歴
中村唯史(なかむらただし)

 1968年生まれ。山口県出身。島根大学進学を機に島根県に移り、2000年に島根県立三瓶自然館を管理運営する財団法人三瓶フィールドミュージアム財団(現公益財団法人しまね自然と環境財団)に就職。広報等を担当。また、世界遺産登録に先出って、石見銀山の将来像を議論した行政と市民による協働会議に参画し、NPO法人石見銀山協働会議の理事としても活動。

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