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大田の自然<三瓶山>

■三瓶山の地下水と湧き水

山麓を取り巻く湧水群

 三瓶山の山麓には水量が豊富な湧き水がいくつかあり、その水は水道水源やワサビ栽培に利用され、下流の田畑を安定的に潤す役割を果たします。その湧水地点は山麓を取り巻くように分布しており、山体からの湧水は三瓶温泉泉源付近以外は水量が少ないものが数箇所認められるにとどまります。山体には湧水とそこから流れる沢がほとんどなく、山麓の湧水地点から突然のように川の流れが始まることは、この山の特徴のひとつです。水量は年間を通じて安定し、水温は12〜13度でこれも安定しています。

三瓶山の湧き水地点

三瓶山周辺の主な湧水地点

三瓶山の湧き水地点

三瓶町池田高利地区の湧水。池の底から砂を動かす勢いで水が湧き出している。静間川の源流点のひとつ。

三瓶山の湧き水地点

三瓶町小屋原の湧水。三瓶川の源流点のひとつ

水量が豊富な理由

 三瓶山の湧水は、この山が火山であることと深い関わりがあります。安定的に豊富な水量を維持していることもそうです。

 三瓶山の山体は「溶岩円頂丘」と呼ばれる火山地形で、デイサイトという火山岩の一種でできています。この山体が形成された時、火口からゆっくりと押し出された溶岩がほとんど流れずに冷えて固まり、後から押し上げる溶岩によって不安定になると溶岩の塊が崩れては山腹斜面へ火砕流として流れ下ることを繰り返しながら次第に大きく高い山が形作られました。このようにしてできた山体のため、緻密で固い溶岩の部分はほとんどなく、火山礫(溶岩のかけら)と火山灰の土砂と、溶岩の部分も空隙(すきま)がとても多いものです。土砂はすきまの割合が20〜30%あり、緻密な岩石の倍程度のすきまがあります。つまり、三瓶山の山体は緻密な岩石でできた山の倍程度の水を蓄えることができるのです。

 砂利で小さな山を作りジョウロでゆっくりと水をかけると、水は砂利の中に染み込んでいきます。同じように三瓶山に降った雨はすぐに染み込みます。そのため、この山では大雨の時にしか地表を水が流れることがなく、降った雨の多くは地下水として蓄えられます。地下水の動きは地表の水に比べてずっと遅く、砂礫の場合は1日に80m程度、砂の場合は30m程度とされます。実際の水の動きはもっと遅い場合もあります。地下に染み込んだ水はゆっくりとしか流れないために、山体の中に長時間留まり、蓄えられるのです。三瓶山はたっぷり水を蓄えたタンクのようなもので、この水によって湧水の水量が維持されています。

三瓶山の地下水のイメージ図

三瓶山の地下水のイメージ図

水量の季節変動が小さいのはなぜだろう

 三瓶山の湧水は年間を通じて水量が安定しています。大雨の直後には増水することがあるものの、2週間程度雨が降らなくてもそれほど水量は変わりません。これは、蓄えられた地下水の量が十分に多く、湧き出す水の量は地下で水が流れる速度によってある程度制限されているので湧水は一定のペースで湧き出続けるのです。

 これは、大きなタンクに小さな蛇口をつけた状態をイメージするとわかりやすいかも知れません。蛇口から水が流れ出るとタンクの水が減っていきますが、蓄えた水量が多ければすぐには無くなりません。そのうちタンクには新しい水が継ぎ足されます。継ぎ足す時にその水が多すぎるとタンクから直接あふれてこぼれてしまいます。こぼれるほど水が継ぎ足されても、小さな蛇口から流れる水の量は一気に増えることはありません。蛇口の大きさが水の量を制限しているのです。

 大きなタンクにあたるのが三瓶山、蛇口は湧水です。水を継ぎ足す役割をするのは雨で、大雨の時には水が地下に染み込まなくなり、地表を一気に流れてしまいます。その結果、湧水の量は安定することになります。

どうして湧き出すのか

 湧水は地形が変化する場所にあることが多く、山すそや台地のきわでしばしば湧水が見られます。山の地下をゆっくりと流れた水が麓の部分で流れ出ることは、比較的イメージしやすいでしょう。山の地下を流れる水には「水圧」が加わっています。山の上の方にある水が流れようとして、低い(深い)場所の水を押しているためです。この水圧は時に地下水を地表近くに押し上げようとする働きをします。水圧が加わった水が押し出されやすい場所が山からなだらかな地形に変化する境目なのです。

三瓶山ならではの湧水位置

 三瓶山の場合、山腹からなだらかな地形に変わる境目よりも少し低い位置に湧水が集中しています。地形の境目部分では、地下水は横へ流れやすく、地表に押し上げようとする力が働きにくいのでしょう。山すそが大変水が染み込みやすい地盤であることと関係していると想像されます。そして、山すそを取り巻くように湧水点が集中しています。この場所は、火山としての三瓶山の「端っこ」とほぼ一致することが特長です。上に示した地下水のイメージ図に、「カルデラの範囲」を示しています。そのカルデラの縁あたりに湧水が集中しています。

 三瓶山は過去の大噴火で長径4.5kmに達するカルデラ(火山性の陥没地形。巨大な噴火口)を作っており、現在の山はその内側で溶岩が噴出したことでできています。カルデラの内側は大部分が土砂のように水が染み込みやすい地盤です。一方カルデラの外側は三瓶火山とは無関係の古い時代の固く緻密な岩石です。三瓶山の地下水はカルデラの内側にはたっぷり蓄えられていますが、そこからさらに低い位置に流れようとすると固い岩盤がさえぎってしまします。一部は岩盤の割れ目に流れていきますが、流れきれない水は押し上げられて湧水になるのです。そのため、湧水点がカルデラの縁あたりに集中して、三瓶山を取り巻くように分布しています。

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