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地層観察の手引き

■出雲平野と神戸川をめぐる自然史(1/7)

出雲塩冶誌編集委員会編(2009)「出雲塩冶誌」の中村唯史執筆部分を再編集、改定して掲載。


写真1 出雲平野を流れる神戸川

写真1 出雲平野を流れる神戸川
神戸川は、島根県では4番目に広い集水域を持つ。出雲砂丘の北側で日本海に注ぐ。


 中国山地の脊梁から流れを発する神戸川。幾条もの流れを集めながら、三瓶山の東を下り、立久恵峡の切り立った峡谷を過ぎるとまもなく、視界が一気に開ける。川は、広い出雲平野をゆったりと流れ、やがて波が白砂を洗う大社湾、日本海に至る。平野の北には島根半島北山の山並みが迫る。北山では、日本海から吹く西風によって雲が立ち上り、刻々と形を変えながら東へ流れる。八雲立つ、出雲国の原風景。
 当地を取り巻く地形景観は変化に富んでいる。そして、そこには自然史の物語に満ちている。


図1 出雲平野周辺の地質分布

図1 出雲平野周辺の地質分布
塩冶地区は、出雲平野の西部、神戸川の右岸に位置する。出雲平野は東西に長い沖積平野で、西は大社湾、東は宍道湖に面する。


【出雲平野】

 出雲平野は、南は中国山地、北は島根半島に挟まれた低地(宍道低地帯)に発達し、東西約20km、南北約8kmの広がりを持つ。平野の西は大社湾に面し、長く弓なりに延びる海浜(稲佐の浜、園の長浜)が発達している。海岸の陸側には出雲砂丘と浜山砂丘の二列の砂丘がある。平野の東は宍道湖に面する。
 平野の西部は神戸川、東部は斐伊川の三角州および扇状地によって構成されている。三角州と扇状地は、河川が運搬した土砂が堆積してできた地形である。前者は河口部に発達する低平な地形、後者は谷の出口を頂点として形成されるごく緩やかな傾斜地で、両者は連続的な地形であることが普通である。出雲平野のように、河川が運搬した土砂が海岸や湖岸に堆積してできた平野を沖積平野と呼ぶ。出雲平野は、日本の沖積平野としては比較的大きなもので、山陰では最大である。
 沖積平野は、日本で最も人口が集中している地形である。また、穀倉地帯となっていることも多い。人口集中地の例としては東京(東京下町低地)、大阪(大阪平野)、名古屋(濃尾平野)など、穀倉地帯としては十勝平野、新潟平野が挙げられる。出雲平野も、島根県最大の穀倉地帯であるとともに、松江平野に次ぐ人口集中地である。
 出雲平野西部は近年の市街地化が著しい地域である。この付近では、神戸川は扇状地面よりも一段低い氾濫原を形成して流れている。古い時期に形成された自然堤防などの微高地は半ば段丘化しており、そこには弥生時代以降を中心とする時代の集落遺跡が数多く分布している。
 一方、平野東部を流れる斐伊川は天井河川になっている。幾条もの明瞭な微高地列があり、現在の集落や道の多くは微高地上に並んでいる。この微高地列の大部分は、近世から近代の堤防および旧河道である。斐伊川の中〜上流部では近世を中心に製鉄が行われた。その影響によって土砂供給量が著しく増大し、氾濫や人為的な川の付け替えが繰り返された結果、多数の微高地列が残された。出雲平野は、これを構成する二つの河川それぞれに流域の地質に由来する特性があることから、その地形発達史は全国の沖積平野の中でも際立った特徴を持っている。それについては、後の項で紹介する。


図2 出雲平野西部の微地形

図2 出雲平野西部の微地形
神戸川扇状地には、扇頂付近から北へ向かう明瞭な旧自然堤防などの微高地が認められ、そこは遺跡の集中地になっている。現在の河道は、扇状地面より一段低い氾濫原を形成して流れている。


【神戸川】

 神戸川は、中国山地の脊梁部から流れ出る河川で、幹川の源流は飯南町上赤名の女亀山(830m)である。大万木山(1218m)、琴引山(1014m)などが源流域にある。また、中流部で合流する支流の角井川、伊佐川は三瓶山(1126m)から流れ出る。河口は大社湾にそそぎ、幹川延長は82.4km、流域面積は199.6平方kmで、江の川、斐伊川、高津川に次いで島根県で四番目の河川規模を持つ。
 流域の地形をみると、中〜上流域では飯南町赤来付近は平坦な盆地をなしているが、それ以外では、起伏に富む山地〜丘陵地が大部分で、神戸川は狭い谷を形成して流れている。出雲市乙立町にある立久恵峡では、侵食によって比高200mにも達する深い谷を形成しており、垂直に近い岩壁が、特異な景観と生態系を育んでいる。出雲市馬木で丘陵地から平野へ流れ出ると、流路は西へ向かった後、出雲砂丘に遮られる形で北へ向きを変え、大社湾に至る。
 流域の地質は、源流域〜上流域には古第三紀の花崗岩類が広く分布し、中流域には新第三紀の火山岩類、堆積岩類が分布している。下流域は第四紀の堆積物からなる沖積平野である。また、流域西端の三瓶山付近には、三瓶火山のデイサイト質の噴出物が分布している。


写真2 立久恵峡

写真2 立久恵峡
中新世の火砕岩を神戸川の流れが削り、切り立った岸壁が連続する景観を形成している。その景観とともに、岸壁に成育する植物群は学術的に貴重。


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