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島根県の自然

■島根半島北山鰐淵寺付近の地質と地形

(1)地形的特徴

 鰐淵寺は、島根半島西部の「北山」と呼ばれる山塊(以下、北山山系)の一角に立地する。北山山系は、鼻高山(536m)を最高峰に、標高400m〜500m台のピークが連なり、全体に比較的急峻な地形である。鼻高山の北斜面に谷を開削して流れる鰐淵寺川の左岸を中心に、根本堂をはじめとする鰐淵寺に関連する建造物が配置されている。

 島根半島は島根県東部の海岸線に並行して東西に細長く伸びる地形で、沖積平野である出雲平野によって本土側と連続した陸繋島状の半島である。島根半島の主軸を構成する山列は3つに分かれ、雁行状に配列している。その山列は、西列は日御碕から旅伏山(421m)にかけての北山山系、中列は十六島鼻から松江市の朝日山(341m)にかけて、東列は恵曇湾付近から美保関にかけての3列で、それぞれの間は第四系からなる低地で区分されている。また、東列の南にやや離れて嵩山(331m)、和久羅山(244m)の山塊が孤立している。島根半島の山塊は東西方向を主軸とする断層系の活動によって、概ね過去1000万年間に隆起してできた地形で、急峻な部分が多い。

浮浪滝

鰐淵寺南方に位置する浮浪滝。成相寺層の硬質な流紋岩質火砕岩がオーバーハングした崖を構成し、沢水が滝となって流れ落ちている。構造運動による北山山系の軸をなす尾根の隆起と鰐淵寺川の浸食によって岩質が硬質な個所に急崖が形成され、そこが滝となった。

 鰐淵寺付近の地形についてみると、境内地を流れる鰐淵寺川は、十六島湾に注ぐ唐川川の支流にあたり、鼻高山(536m)、天ヶ峰(458m)、大黒山(443m)、万ヶ丸山(499m)が連なる一帯を集水域としている。その谷は全体には急峻なV字谷で河床は岩盤の露出箇所が多く、河岸の土砂堆積は限定的である。谷斜面は全体的に急角度だが、堂などが配置されている左岸側の一帯は小規模な河岸段丘状の緩やかな地形である。この地形を利用して平坦地を造成し、境内が整備されている。また、左岸側の尾根を越えた先の北斜面では、別所町から唐川町にかけての概ね1km2の範囲にわたって、標高150m〜300m前後のやや傾斜が緩やかな斜面が広がっており、茶畑などに利用されている。これほどの広さをもった緩斜面は、北山山系には他に見当たらず、特徴的である。なお、個々の規模は小さいものの、鼻高山から旅伏山へ連なる尾根筋を挟んだ南側斜面にも、同程度の高度の緩斜面を含む数段の段丘状地形が認められる。これらの緩斜面の分布は、後述する成相寺層の頁岩の分布域と重なる。風化してもろくなりやすい岩質が段丘面の形成に影響しているかもしれない。

 鰐淵寺から鼻高山山頂付近へ直線的に続く谷は、河床勾配が約22度のかなり急峻な地形(急傾斜地指定対象は30度以上)で、その一角に硬質な岩盤が切り立っており、18mの落差を持つ浮浪滝が形成されている。

鰐淵寺周辺の地質図

鰐淵寺周辺の地質図。「新編島根県地質図(20万分の1)」、新編島根県地質図編集委員会(1997)をもとに作成。当地一帯には、新第三紀中新世中期から後期にかけての火山岩類、堆積岩類が分布する。中新世の中期は、日本海形成期にあたり、当地一帯のこの時代の岩石は、拡大しつつあった日本海の海底で形成されたもの。中新世中期に日本海海底で形成された地層は、緑色を帯びた凝灰岩類を特徴的に含むことから、この時代の地層の分布域を「グリーンタフ(緑色凝灰岩)地帯」と呼ぶ。島根半島もこれに含まれる。

(2)地質的特徴

 北山山系には、新第三紀中新世(2650万〜650万年前)の地層が分布する。中新世は、日本海が形成され、日本列島がユーラシア大陸から切り離されて島弧化した地殻変動の時代である。当地周辺に分布する中新世の地層は、概ね2000万〜1500万年前の成相寺層、1500万〜1300万年前の牛切層、1300万〜1200万年前の古江層に区分される。鰐淵寺付近は成相寺層の流紋岩質の火砕岩と一部に流紋岩溶岩が分布している。岩質は硬質で、鰐淵寺川の河床では水流に削られた火砕岩の緻密な岩肌をみることができる。

 成相寺層は、拡大しつつあった日本海の海底で、海底火山活動の影響を受けながら形成された地層である。同層の流紋岩質の火砕岩と溶岩は海底火山の噴出物で、熱水による変質作用を受けて緑色を帯びている。鰐淵寺の北側に分布する同層の頁岩は、黒鉱鉱床を胚胎している。黒鉱鉱床は、盆地状の海底で生じた熱水活動によって銅、鉛、亜鉛などの鉱物が混合した鉱石(黒鉱)が沈殿してできた堆積性の鉱床で、黒鉱の周囲には石こうを伴う。その分布は、成相寺層と同時期に日本海海底で形成された地層に限られ、世界的にまれなタイプの鉱床である。黒鉱鉱床としては秋田県の花岡鉱山や小坂鉱山が代表的で、ゼオライト鉱山として稼働している大田市の石見鉱山もこのタイプである。北山山系は、黒鉱鉱床のほか、黒鉱鉱床に伴う鉱脈型鉱床や他の要因で形成された鉱床が点在している。

 牛切層は成相寺層に比べて浅い海域で形成された地層で、礫岩など粗粒な堆積岩も伴っている。火山活動の影響も成相寺層の時代に引き続いて大きい。牛切層は砂岩と泥岩の互層が特徴的で、当地の石切り場でその様子を観察できる。特に小伊津町の海岸では明瞭な砂泥互層が発達している。

 古江層は北山山系の北側から宍道湖北岸にかけて分布する地層で、泥岩を主体とする浅海の堆積物である。この地層では火山活動の影響はなく、日本海拡大期の火山活動が終息したことがうかがわれる。

浮浪滝下方の転石

浮浪滝下方の転石。変形した層状構造がみられる流紋岩質の溶結凝灰岩。岩質は硬く、緻密。同質の岩石が鼻高山から鰐淵寺のやや北まで連続的に分布している。一部に流紋岩溶岩を伴う。熱水変質により鉱物が緑泥石化しており、風化していない新鮮な礫は緑色を帯びている。

鰐淵寺付近の露頭

鰐淵寺と第1駐車場の間の道路脇の露頭。地層面に沿った節理が明瞭な流紋岩質凝灰岩。河床で浸食された部分は緻密で硬質だが、風化を受けると節理が発達するものとみられる。

鰐淵寺の第1駐車場近くの礫岩露頭

第1駐車場近くの礫岩の露頭。牛切層。円礫を主体とする。

鰐淵寺の北方、金山地区の砕石場

鰐淵寺の北方、金山地区の砕石場。牛切層の砂岩、頁岩が露頭している。地層は北へ傾斜している。

鰐淵寺の北方、金山地区の砕石場

鰐淵鉱山のズリに含まれる石こう。鰐淵鉱山の鉱床は日本海形成期の海底火山活動で形成された黒鉱鉱床で、多様な金属鉱物が混合した黒鉱と、その周辺から石こうを産出した。昭和40年頃まで、国内有数の石こう鉱山であった。

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